オペラ演出の第一人者と全盛期のドミンゴによるオペラ映画の最高傑作
ヴェルディ『椿姫』
豪華絢爛の舞台で一斉を風靡したオペラ演出家フランコ・ゼッフィレッリが全盛期のプラシド・ドミンゴと組んで作ったオオペラ映画の最高傑作と呼び声の高いオペラ映画が上演されているというチラシを見て、東京都写真美術館に行ってきました。
This opera film is the crowning work of the opera film by the authority of opera production and Domingo of the heyday
監督は、豪華絢爛の舞台の演出で一斉を風靡し、「ロミオとジュリエット」など映画監督としても実績もあるオペラ演出家フランコ・ゼッフィレッリ、アルフレード役に41歳と声も音楽表現も最高の時期のプラシド・ドミンゴ、ヴィオレッタ役には当時可憐で愛らしい舞台姿で人気のあったテレサ・ストラータス、音楽はジェームズ・レヴァイン指揮、メトロポリタン歌劇場管弦楽団という最高の布陣でした。
ヴィオレッタ役のテレサ・ストラータスは、宮殿の中や野山を走り回り、今まで贈ってきた豪奢で贅沢とアルフレッドからの求愛の狭間で揺れ動く心や、アルフレッドから侮蔑されて、「これも貴方への私の愛の表現なの」と泣きながら訴えるシーンは、見ていて思わず涙してしまうほど、身体全体を使って体当たりしたような迫真の演技でした。
私がオペラ舞台の映像作品を、生の舞台の予習としてしか見ないのにはひとつの理由があります。原作は若い美男、美女という設定なのに、歌手として実力のある人はそんなに若くて美しいはずもなく、それが分かっているのに、役の年齢にそぐわない派手な衣装をまとわせ、しかかもご丁寧に顔をアップしてミスマッチを強調する悪趣味な映像表眼に抵抗を感ずるのです。生の舞台では歌手の顔までは遠くて見えないのだから、ロバート・ロッセンや黒澤明のようにカメラを引いて絵画空間のような撮り方をすればよいのにといつも思います。
しかし、今回の映画は映画監督としても実績のあるフランコ・ゼッフィレッリだけあって、緩急を巧みに使ったカメラワークで、カメラを引いて自然の美しい風景の一部のように愛し合う二人を表現するなど、顔のアップを必要最小限に抑えていたように思えました。
ヴィオレッタ役のテレサ・ストラータスは当時45歳だったようですが、若作りのメークに多少抵抗を感じたものの、愛らしさと可憐さを身体全体で表現する演技力で見事に年齢のギャップをカバーしていて、それほど違和感はありませんでした。
アルフレード役のプラシド・ドミンゴは当時41歳だったそうですが、さすがイケメンと言えるほど容姿でも人気のあった歌手だけあって、若々しい青年のイメージを壊さないのはさすがでした。ただ、世間知らずで純情な青年というアルフレード役設定には、ドミンゴは風格がありすぎて違和感はありましたが、ストラータスが演技では終始ドミンゴをリードしていて、愛のドラマを見事に演じていました。
音楽表現は最盛期のプラシド・ドミンゴだけあって抜群の美声で、「乾杯の歌」は鳥肌か立つほど魅力的でした。ストラータやジェルモン役のマクニールを初め、さすがメトロポリタンオペラだけあって音楽は最高水準のものでした。第2幕の夜会に、ボリショイ・バレエのプリンシパル・ワシリーエフとプリマ・マクシーモアの最高水準ダンスのシーンを入れたのは作品の芸術性を強調する意味で効果的でした。
ラストシーンで、通常のオペラの舞台と違って、アルフレードの姿が画面から消え、ひとり残ったヴィオレッタが床に崩れ落ちて息絶えるという表現にしたのは、ヴィオレッタが亡くなる直前にアルフレードが会いに来て最後までヴィオレッタを愛していたことをつげ、ヴィオレッタの不幸を招いたジェルモンが後悔の念に苦しんだ、というストーリーの中で救われる部分が、実は現実でなく、ヴィオレッタの夢だった、という残酷な表現をしたかったのではないかと思いました。このように映画的では、全体にヴィオレッタの悲劇性を強調していました。
オペラの舞台だと死んだはずのヴィオレッタが、終わった後出演者と手をつないで元気に挨拶するので、これは一時の夢物語なのだと安心して心地よく帰宅できるのですが、このように完全に悲劇で終わってしまうと、オペラは現実の生活から離れた一時の夢の世界にしたれる時間という、オペラ独特の楽しみとは別の次元を感じました。
映画として完成度の高い作品で、「オペラ映画の最高傑作」の名に恥じない名作映画として感動し十分楽しめた有効な時間だったと思います、しかし、私がイメージしている「オペラ作品」とはかけ離れたもので、ヴェルディの音楽を使っていて音楽はかなり違いますが、ミュージカル映画の傑作「マイ・フェア・レディ」と同じ世界の作品だという印象を受けました。
(2010.12.23、恵比寿ガーデンプレイス・東京都写真美術館ホール)
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これからもよろしくお願いいたします。
この映画は初めて知りました。私も機会があったらみたいとおもいます。情報をありがとうございました。
映画のような映像と生の舞台は全然違うのは、私も感じます。映像作品は、演技はもちろん、カメラワーク、映像美を求めるもので、舞台演出とは別世界ですね。いくら良いオペラ映像であっても、オペラやバレエは生で見るべきという考え方は共感します。
話は変わりますが、最近はミュージカル映画らいし作品はほとんど作られなくなりましたね。名作は昔の作品ばかりです。さびしい限りです。このオペラ映画もミュージカル映画全盛期の作品のようですね。
こうなると、desireさんがご紹介しているような映画は貴重ですね。
声の質がなんとも魅力的で、現在、彼のような存在はいねのでしょうか