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芸術と自然の美を巡る旅  

ミケランジェロ初期の最高傑作のひとつ

ミケランジェロ 「階段の聖母」
Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni "Our Lady of the stairs"

ミケランジェロ初期の最高傑作のひとつ_a0113718_1614565.jpg


 東京西洋美術館では、システィーナ礼拝堂500年祭記念「ミケランジェロ展―天才の軌跡」が 2013年9月6日(金)~11月17日(日)まで開催されています。ミケランジェロ・ブオナローティは、ルネサンスの頂点の一人でもあり西洋美術史に最も絶大な影響を与えた偉大な芸術家の1人です。しかし、作品がほとんど門外不出であるため、「ミケランジェロ展」は今までほとんど開催されなかったように思います。




 今回素描を中心とする30点を超すミケランジェロの作品が来日しましたが、傑作は晩年の作品「キリストの磔刑」とミケランジェロが15歳頃に制作した初期の大理石浮き彫りの傑作「階段の聖母」の二点だけで、素描作品の傑作「レダ」や「クレオパトラ」なども展示されていましたが。私が会場に来た目的はただ1点、ミケランジャロが十代に制作した史上初の来日の「階段の聖母」を鑑賞することでした。

ミケランジェロ初期の最高傑作のひとつ_a0113718_16163167.jpg"Our Lady of the stairs" is a work that has been produced around the time of 15-year-old Michelangelo. This work has been produced by the technique of very thin relief Donateruro was good at.Body of the Virgin Mary are three-dimensional representation of extremely strong. There are uncanny presence of the Virgin Mary in this work.

 「階段の聖母」はミケランジェロ15歳のころ制作された作品で、ドナテルロが得意とした極薄肉浮彫の技法で制作されています。聖母マリアの身体は極めて立体的に浮きだし、掘りも力強く、とにかく聖母マリアの存在感はすごいものがあります。

 後期ゴシック時代の聖母像の表現は「玉座の聖母」といわれる謙譲の聖母の威厳があり、幼子イエスも聖母の視座の上に乗り、威厳のある姿をしていましたが、14世紀中ばころから幼子イエスが聖母の乳房に口を含んだりして、聖母子としてのやさしい交流を示す聖母子像が増えてきました。典型的なルネサンスの聖母子像は聖母マリアと幼子イエスの愛情を表現したものが多いですが、この「階段の聖母」は後期ゴシックとルネサンスの聖母像の両面を持っていて、典型的なルネサンスの聖母像の表現までは至っていないように思えます。

ミケランジェロ初期の最高傑作のひとつ_a0113718_1618323.jpg 「階段の聖母」に描かれた聖母の横顔は、この時期は聖母子のやさしい心の交流を示す作品が多くなっていますが、ミケランジェロのこの聖母子は聖母子としてのやさしい交流の「階段の聖母」では二人の愛の交流はほとんど感じられません。聖母マリアは主思いにふけり、キリストの受難を予見しているようにも見えます。聖母子像の形をとっていますが、画面の主役は完全に聖母マリアであり、聖母マリアの顔や全体像の清楚な美しさと憂いの表情が印象的な作品となっています。「階段の聖母」では、聖母は口を堅く閉じ、緊張した表情わしています。

 幼子イエスも背中を向け、守りの姿勢をしているようです。幼子イエスは聖母の霊体から生まれてきたかのように、上半身だけが姿を現し、聖母マリアは、わが子の運命を予見し気遣いながら禁欲的な諦めの念の気持ちを心に抑え込んでいるように顔を緊張させ眼を見開き口を閉じ、手は幼子の衣服を強くつかみ包み込むように幼子を護ろうとしているようです。その手は何かの危険を感じて幼子イエスの頭に布をかけ布を固く握り幼子イエスを護ろうとしているように見えます。聖母はキリストの受難を予言し、左上の子供たちは、キリストの屍衣を連想させる布を持っています。

 ミケランジェロは6歳の時は親に死なれ、幼児期病弱だったため澄んだ空気のトスカーナの北の農園で育てられました。私生児だったダ・ヴィンチと同様、母の存在を知らず幼児期を育ったことが、愛に対する深い感受性と独特の理解力を生んだとも言われています。その表現は、ミケランジェロの生い立ちと無縁ではないと言われています。若い聖母がイエスに乳を与えている姿は、石工の妻の乳母に乳を与えられているミケランジェロの姿でもあるともいわれています。

ミケランジェロ初期の最高傑作のひとつ_a0113718_16183531.jpg ミケランジェロの彫刻のひとつの頂点ともいえるブァチカン聖堂の「ピエタ」のように洗練されてはいませんが、若きミケランジェロの気迫あふれる力強さが伝わってきます。なぜ階段があるのか、左上の子供たちは何を意味するのかはいろいろな解釈があるようですが、この作品をみると、この作品の魅力は美しい聖母の存在感そのものであり、そのような不可解さは些細なことに感じてしまうのでした。














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by desire_san | 2013-11-01 16:53 | イタリア・ルネサンス美術の旅 | Comments(27)
Commented by soundbox1960 at 2013-11-01 18:41
初めまして、desire_san様
成る程なぁ、と頷ける感想ですね。改めて図録を見直して実物の感触を思い出して居ます。
ブログ訪問、有難う御座いました。
今後共宜しく御願い致します。
Commented by ciao66 at 2013-11-01 18:51
ミケランジェロの聖母子像は母の方にアクセントがついている、というのは
確かにそのように思われますね。
天才とはいえ、やはり15歳の作品だからでしょうか。
左上の少年はひょっとしてミケランジェロそのもの?
Commented by e-ku-bo3 at 2013-11-01 20:29
わずか15才のミケランジェロが、
聖母子像に対して何を表現しようとしたかは
クリスチャンでもない私には、理解が及びませんが、
真摯な気持ちで、レリーフに表現しようとしていることは
充分伝わって来ますね。いずれにしても、天才のなせる技です。
Commented by greenkatastumuri at 2013-11-01 23:36
今晩は。
ミケランジェロの15歳のころの作品とは、驚きました。
確かに、我が子を愛おしく見守る姿ではないように、みえます。
大きさはどれぐらいなのでしょうか?
Commented by Haruna_Takahash at 2013-11-02 12:17 x
こんにちは。
私もシスティーナ礼拝堂500年祭記念「ミケランジェロ展―天才の軌跡」をみてきました。ミケランジェロ展はたしか初めてだと思いますが、ほとんど門外不出のさくひんばかりなので、彫刻作品がきたのははじめてではないでしょうか。
ところで、ミケランジェロのピエタは 「ロンダニーニのピエタ」作品あるそうですが、私はすべてみたことがあります。サン・ピエトロ大聖堂のピエタは最高にすばらしい作品ですね。フィレンツェのドゥオーモ美術館のピエタは、現代アートにつうずるような別の意味ですばらしい作品だと思います。 意外に好きなのがミラノ、スフォルツァ城にある「ロンダニーニのピエタ」です。ピエタはイエスの亡骸を聖母マリアが抱く形が一般的ですが、この作品はマリアがイエスを抱き起こそうとしている、イエスがマリアを背おい一緒に天上へ昇っていくように見えます。「階段の聖母」もそうですが、ミケランジェロの表現には変遷があり、そこがすごいところだと思います。
Commented by Keiko_Kinoshita at 2013-11-02 12:30 x
ミケランジェロ「階段の聖母」についての記事拝読しました。「階段の聖母」については、これ以上かくことのないほど丁寧にご説明されているので、触れておられないミケランジェロのデッサンについて書かせていだきます。
本展をみても、ミケランジェロのデッサン力はすごいとおもいました。女性の様にも男性の見える。不思議なタッチ、「白鳥とレダ」のデッサンでも、ミ彫刻の立体感を絵画作品に作れるケランジェロの力量が感じられました。そのような目で見ると、ミケランジェロのデッサンもみどころがありました。
Commented by desire_san at 2013-11-02 12:44
soundbox1960さん、 ciao66さん、コメントありがとうございます。
ミケランジェロは15歳にしてねこれだけの完成度の高い彫刻を制作でする。並みの天才ではありませんね。人生の後半では現代アートに通ずるような彫刻を制作しています。美術の歴史を塗り替える天才とはこのくらい才能があるのでしょうね。
Commented by desire_san at 2013-11-02 12:48
e-ku-bo3さん、greenkatastumuriさん、コメントありがとうございます。
「階段の聖母」は自宅に飾れる程度の大きさの作品ですが、聖母の存在感など大きさ以上の迫力があります。ミケランジェロのレリーフを見るのは初めてでしたが、レリーフを超えた彫刻的な表現に魅かれました。
Commented by desire_san at 2013-11-02 12:53
Kinoshita さん、ミケランジェロのデッサンについてあえて触れませんでしたが、ミケランジェロのデッサン力の凄さにも感嘆しました。「彫刻の立体感を絵画作品に作れるミケランジェロの力量」と表現されていますが、これはミケランジェロの絵画の本質をうまく表現されていると思い、共感いたしました。
Commented by desire_san at 2013-11-02 12:58
Takahashiさん、 コメントありがとうございます。
サン・ピエトロ大聖堂のピエタは感激しました。フィレンツェのドゥオーモ美術館のピエタもTakahashiさんと同じような感想を持ち感動しました。他にも2つのピエタがあると聞きましたが、「ロンダニーニのピエタ」のことは初めて知りました。興味ある作品と思い、一度見たいと思いました。ご紹介ありがとうございます。
Commented by やいゆえ横浜住民 at 2013-11-02 18:39 x
自分のブログの方にコメントありがとうございました。

「階段の聖母」、美術史やキリスト教の知識を持て合わせておらず、意味は考えずに見ておりました。
なるほどと、参考になりました。
Commented by mitarumama at 2013-11-02 19:18
はじめまして(^^)ブログへのご訪問ありがとうございます!
desire_sanさんのご感想、なるほど!です。
確かに母子の愛情溢れる温かな作品というより、緊張感に満ちた印象を受けます。
図録を読み返したくなりました。
Commented by rollingwest at 2013-11-03 10:30
上野の国立西洋美術館は世界遺産候補になっているようですね。
Commented by desire_san at 2013-11-03 12:55
やいゆえ横浜住民さん、 mitarumamaさん、よんでいただいてありがとうございます。お役にたててうれしいです。
Commented by desire_san at 2013-11-03 13:06
rollingwestさん、 国立西洋美術館は、創造的才能を発揮して、景観設計を配慮した科学技術と融合した20世紀建築と都市計画方向と発展性を示唆したフランスの世界的建築家、ル・コルビュジエが設計したもので、フランス、スイス、ベルギー、ドイツ、アルゼンチンの彼の作品とこの国立西洋美術館の22の建築物をあわせて、2007年から世界遺産に推薦して、認定されるように動いているようです。
Commented by nene_rui-morana at 2013-11-03 20:38
 御無沙汰しております。
 自分も先月見てきまして、大変感動しました。展示作品を現地では見られなかったものの、イタリア・ミレニアム旅行が懐かしく思い出されました。
 作品の素晴らしさもさることながら、手稿や手紙に記されたサインなどに、ミケランジェロの人間性や息づかいが感じられる思いがしました。生涯独身だったミケランジェロに「孤高の一匹狼」的なイメージを抱いていましたが、情愛を注いだ親族が存在したことも自分にとっては新たな発見でした。
Commented by desire_san at 2013-11-04 00:32
nene_rui-moranaさん、時々ブログを拝見して勉強させていただいています。ミケランジェロ展は彫刻は数点でしたが、デッサンや手稿や手紙などご指摘のようにミケランジェロの人間性を表すものがたくさんあり、よかったですね。ミケランジェロは孤高の人ではありますが、一匹狼ではないと思います。ラファエロをはじめミケランジェロとの出会いにより、自らの芸術の道に開眼した人は数知れず、多くの芸術家から師として尊敬され、目標とされました。とにかく凄い人ですね。
Commented by MIEKOMISSLIM at 2013-11-07 20:52
ブログ記事「ターナー展」にコメント有難うございました。書きかけていた自分のミケランジェロ展記事を終えて、こちらの記事を興味を持って拝見しました。私は同展は、主にシスティーナ礼拝堂関連展示に興味あって、以前旅で現地で天井画や「最後の審判」を見た時にはほぼ、ただスケールに圧倒されたのみでしたけれど、今回色々その復習になりました。

その他では、処女作という「階段の聖母」も目に留まって、鑑賞後その延長に「ピエタ」、のような説は見かけたのですけれど、ミケランジェロ自身の生い立ちが反映されている、という説もあるのですね。やはり15才時にして、深み、含みのある創作と改めて思いました。
Commented by desire_san at 2013-11-07 21:33
MIEKOMISSLIMさん、私も昨年で現地でシスティーナ礼拝堂天井画と「最後の審判」を見ました。感激してのべ4時間もそこにいました。
ブログには触れませんでしたが、今回のシスティーナ礼拝堂関連展示は、それを思い出し良かったです。
Commented by ai_ikuko at 2013-11-07 21:40
desire_sanさん、ブログへのコメントありがとうございます。
とても勉強になります。
ミケランジェロの作品はまなざしの厳しさ、緊迫感が伝わるものが多いですね。そして、残された手紙からは仕事人として、また親族としてのミケランジェロが少し分かったのも面白かったと思っています。
Commented by rock-me-baby at 2013-11-08 09:21
ブログ訪問ありがとうございました。
あまり美術の知識は持ち合わせていないのですが、美術館に行くのは好きなんですよね。ブログを拝見してなるほどな~と思いました。

「立体彫刻を作る人のデッサンは一味違う」
と聞いたことがあるのですが、ミケランジェロ展では確かにデッサンが凄いなと感じました。

Commented by desire_san at 2013-11-08 12:46
ai_ikukoさん、 rock-me-babyさん、コメントありがとうございます。
ミケランジェロは彫刻的な表現を備えた絵画を目指したようで、緊迫感を大切にし、デッサンも彫刻のような奥行きを感ずるように描いていると感じます。デッサンのうまさを超えたものがあると思いました。
Commented by desire_san at 2013-11-08 12:46
ai_ikukoさん、 rock-me-babyさん、コメントありがとうございます。
ミケランジェロは彫刻的な表現を備えた絵画を目指したようで、緊迫感を大切にし、デッサンも彫刻のような奥行きを感ずるように描いていると感じます。デッサンのうまさを超えたものがあると思いました。
Commented by youmei88 at 2013-11-20 14:20
先日は、稚拙なブログにおいでいただきありがとうございました。
私は、実際3週間ほどイタリアに行き、大きな衝撃を受けました。国そのものが芸術でしたね。
Commented by desire_san at 2013-11-20 21:06
youmei88さん、私もイタリアに行き衝撃を受けました、国中にルネサンス時代の旧市街が残っていて、そこに人々が暮らしている。小さな個人商店が街の中で息づいている、日本が経済発展で失ったものの多くが残っている、全く違った価値軸で動いていると感じました。イタリアは、失業率は日本より高いですが、自殺率は1/3以下です。
Commented by tabinotochu at 2013-11-28 23:31
desire_san、TBありがとうございました。気づくのが遅く、返事が遅れてしまいました。
相変わらずすごい観察眼ですね。システィーナ礼拝堂は素晴らしいですよね。今後も期待しています。
Commented by desire_san at 2013-11-29 01:26
tabinotochuさん、ありがとうござます。
美術展のレポート時々拝見しています。
tabinotochuさんはレポートが早く、もうターナー展について書かれていますね。
私もターナー展を見たら、レポートにコメントさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

by desire_san