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芸術と自然の美を巡る旅  

華やかさと醜さの共存する世紀末ウィーンに生きる姉妹の物語

R.シュトラウス『アラベッラ』
Richard Strauss “Arabella”
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 R.シュトラウスはワーグナーを意識して30歳でオペラを書き始め、詩人で劇作家のホフマンスタールから脚本の提供を受け、『サロメ』『エレクトラ』で成功し、更にホフマンスタールとの共同制作で『バラの騎士』、『ナクソス島のアリアドネ』『影の無い女』と成功をおさめました。『アラベッラ』はホフマンスタールが途中亡くなってしまったため最後の共同作品となりました。



Arabella, is a lyric comedy or opera in three acts by Richard Strauss to a German libretto by Hugo von Hofmannsthal, their sixth and last operatic collaboration. It was first performed on 1 July 1933, at the Dresden Sächsisches Staatstheater.

 『サロメ』『エレクトラ』『影の無い女』は不協和音が多く、前衛的な作品といえますが、『アラベッラ』は『バラの騎士』の成功を受けて、19世紀ロマン派のオペレッタ的要素も持つ甘口のフランスオペラ的な作品に作ろうとしたものと考えられています。

華やかさと醜さの共存する世紀末ウィーンに生きる姉妹の物語_a0113718_77283.jpg第1幕 アラベッラの父 ヴァルトナー伯爵はギャンブル狂で破産寸前、母の伯爵夫人は怪しげな占いに頼るばかり。両親の望みは、美人のアラベッラを玉の輿にのせ経済的窮地を抜け出すことばかりで、妹のズデンカはお金を惜しんで男装をさせられ世間的には弟として育てられています。仕官マッテオはアラベッラに夢中です全くの片思い、同情したズデンカは姉の失跡をまねて何通も恋文を書いてマッテオを慰めようとするうち、彼女自身がマッテオに恋心をいだくようになります。そんな中クロアチアに広大な農園を持つ大金持ちのマンドリーカが現れ、写真を見てアラベッラと結婚したいという申し出があり、父親は有頂天となります。 

華やかさと醜さの共存する世紀末ウィーンに生きる姉妹の物語_a0113718_774511.jpg第2場、独身時代に別れを告げる謝肉祭の舞踏会でアラベッラは、マンドリーカから求婚を受け、ふたりは運命的な出会いを感じます。失恋を悟ったマッテオは自殺もしかねない状態になっているのを知り、ズデンカはアラベッラの鍵と偽って自分の部屋の鍵をわたし、秘密の逢引きに誘います。二人のやり取りを聴いたマンドリーカは、アラベッラに裏切られたと思い、怒りを爆発させ自暴自棄に振る舞います。

第3幕、アラベッラを抱いたと思いこんだマッテオの馴れ馴れしい態度にアラベッラはとまどいます。マンドリーカはアラベッラの不貞を責めると、彼女と両親は侮辱されたと思い、混乱は収拾がつかなくなる状態になります。そのときズデンカがネグリジェ姿で現れ、涙ながらに真相を打ち明け、ズデンカの男装の秘密も明かされます。アラベッラは恥じ入るマンドリーカを許し、ズデンカは愛するマッテオと結ばれます。

華やかさと醜さの共存する世紀末ウィーンに生きる姉妹の物語_a0113718_784271.jpg 作品の個々の場面を見ると、人物の心理の音楽表現は巧みで、マンドリーカ登場のシーンのスラブ民族的スケールの大きい音楽、ズデンカの不安に揺れ動く心を表す音階が上下する音楽、マッテオのやけっぱちを表現する音楽などさすがR.シュトラウスといえる上手な音楽づくりを感じました。

 第3幕だけに前奏曲をつかい、ズデンカとマッテオのラブシーンを想像させオペラをきれいに仕上げている技法もさすがだと思いました。

 ワーグナー的な要素から脱しフランスオペラ的要素を持たせようとする意図も感じられます。音楽に独立性もあり、美しいアリアなども取り入れています。しかし、ワーグナーを連想させる要素、例えばアラベッラは寄ってくる男を寄せ付けず白鳥の騎士・マンドリーカを待っている姿は、ワーグナーの『ローエングリン』の白鳥の騎士を待つエルザのイメージと重なるような気もします。

華やかさと醜さの共存する世紀末ウィーンに生きる姉妹の物語_a0113718_793726.jpg また、ワーグナー的な要素から脱しようとしたことで、『影の無い女』『バラの騎士』などR.シュトラウスの傑作オペラと比べると深みに欠けるようにも感じました。この物語の元々の台本は、男に成りすました妹を主人公とした短編小説「ズデンカ」だそうですが、オペラでは心優しい性格のズデンカの存在に対するマッテオの気持ちの表現がややで、ズデンカとマッテオの恋の成就が印象強く描かれていないような気もします。

 この作品が書かれた時代は、暗雲たちこめるナチスの台頭し始めた時代で、絢爛豪華なウィーンの社交界は、貴族たちの没落、貧しさ、醜さと表裏一体という側面があります。アラベッラの美しいドレスは、一族の経済的破綻を隠すための偽りの衣装、彼女の両親は一文無しになってしまった自分たちの体裁を保つため娘を金持ちに売ろうとしているとみることもできます。

Age written this work painter, the social circles of Vienna, downfall of nobility and luxury apparent, there were two sides of the same coin aspect of poverty, and ugliness. The beautiful dress of Araberra, costume false to hide the economic collapse of the family, her parents are trying to sell to the rich daughter to keep the appearance of their own.

華やかさと醜さの共存する世紀末ウィーンに生きる姉妹の物語_a0113718_7103348.jpg アラベッラは没落した家族を救えるのは自分しかいないと自覚しています。アラベッラもズデンカも自分の立場を理解しているからこそ、本当の心境はかなり複雑なはずです。うがった見方をすれば、両親の経済破綻を救うために、アラベッラがすんなり玉の輿に乗れるようにするため、妹のズデンカが自己犠牲の道を選ぼうとした、しかし素直で不器用なため、マッテオに対する恋心に揺れて恋する乙女になってしまう。アラベッラは一家を背負って生きていかなければならないので、妹のようにすなおに振る舞うことができず、金持ちのマンドリーカの後妻の道を選ぶ。聴衆にそんな邪心を感じさせないためには、姉妹の恋の成就と愛の勝利ををもっと明確に演出する必要があったのではないでしょうか。

 これは私の個人的な見解ですが、このオペラの第3幕の終わりは、このような複雑な状況を踏まえるならば、詰めが甘いような気がします。単純なアラベッラとマンドリーカのラブストーリーの結実のような終わり方に留まらず、その前に手もズデンカとマッテオの愛の2重唱を歌わせたりすれば、純情なズデンカも幸せになり、二組の愛が本当に成就したことを強く印象付けられ、何ともいえない後味の悪さを感じる人もいないのではないかと思えるのです。ホフマンスタールが途中亡くなっていなければ、もっと完成度の高い作品になっていたかもしれないさえ思えるのです。

I feel the end of the third act of this opera, such as not follow through will. In addition to the two duet of love Mandorika and Araberra, 2 duet of love of Matteo and Zdenka be entangled, we were the strong impression that the love of two sets is fulfilled really. Hofmannsthal has not died the way, might have been made to work more complete.

 原作はともかく、今回のフィリツプ・アーローの演出は色彩感豊かで美しい舞台でした。安井陽子さん演ずるフェッカミリの赤く華やかな衣装が、アラベッラのドレスにあわせた濃紺の舞台に変化と華やかさ与え、舞台美術的にも見事だったと思います。その一方で、ギャンブル狂いの父と占いにすがる母という両親の愚かさを強調し、ふたりの娘の置かれている境遇とアラベッラの悲壮な使命感を浮きただせていたのも良かったと思います。

 タイトル・ロールのアンナ・カプラーを中心とした歌手陣も充実していて、第1幕のアラベッラとズデンカのソプラノの2重唱、第2幕のアラベッラとマンドリーカの愛の2重唱、フェッカミリのコルトローラのアリア、第3幕のアラベッラがズデンカを慰めるソプラノの2重唱、マンドリーカが誤解したことを公開して歌うアリア、フィナーレのアラベッラとマンドリーカの愛の2重唱と美しい歌の聴きどころは充分あり、音楽を楽しめる舞台だったと思います。
(2014.4.3 新国立劇場オペラパレス)










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by desire_san | 2014-06-05 07:13 | オペラ | Comments(11)
Commented by Moritania_87 at 2014-06-06 03:14 x
ホフマンスタールは。ウィーン世紀末文化を代表する青年ウィーン派の一員で印象主義的な新ロマン主義の代表的作家だったようで、『痴人と死』のような世紀末的な雰囲気の劇作を書いていたようです。彼にとってもR.シュトラウスとの出会いは運命的なもので、「エレクトラ」 「ナクソス島のアリアドネ」「 薔薇の騎士」「影のない女」などの傑作を残しましたが、第1次世界大戦の後オーストリア=ハンガリー帝国崩壊に大きな精神的ショックを受け、晩年は過去の文化や伝統に回帰し、1929年、卒中により死去。その2日後息子フランツも自殺したそうです。『アラベッラ』が以前のR.シュトラウスのオペラと性格が得割ってきたのもその影響もあるのではないでしょうか。
Commented by Masayuki_Mori at 2014-06-06 03:26 x
ハプスブルグ家が栄えたウィーンという街は、交易の中心地で、国際的雰囲気があり、ミラノなどイタリアやフランス文化との交流も盛んでした。「アラベッラ」には世紀末の頽廃的雰囲気とともにフランス的雰囲気も流れているような気がします。 「アラベッラ」は、マッテオが暗闇で抱いた女性をアラベッラと勘違いするなど無理な花はもありますが、、最後はホロッととするようなハッピー・エンドの恋物語にしあがっていて、深読みしないで楽しめば、これはこれでよいのではないでしょうか。
Commented by NOGUCH at 2014-06-06 04:21 x
この作品には、ホーフマンスタール自身の記述であります。「ところで、マンドリーカが嫉妬をすることで、それまでのプランとは全く違って深刻に、マンドリーカとアラベラをマッテオとズデンカの危険な一件と関連づけるというあなたのご提案は全くもって素晴らしいものです。(・・・)そして第三幕では全員が、重い罪を担わされたアラベラよりも、さらに罪深いという考えは素晴らしく、(・・・)フィアカー・ミリの登場は、この筋書きのために呼び出されたようなものです。(・・・)そして第二幕は騒然としたフィナーレへと向かって演じられ、このフィナーレの大混乱に接した観客は、マンドリーカの行く末と、そして物語の悪い結末を思って真剣に心配しますが、その後第三幕で演じられる大いなる取り違えに際して、激しい緊張感ののち素晴らしく友好的な解決に至るのです」詳しくは当サイトをご参照くだ゜さい。
Commented by Keiko_Kinoshita at 2014-06-06 08:11 x
初日に観ました。青の世界の演出は19世紀末の迫り来る貴族社会の終焉と退廃と狂躁感を映し出しているのでしょうか。ダメな両親の思惑に対し、しっかり者の姉妹が本当の恋を掴み取っていく、結末は胸に温かいものとかんじました。アラベッラ役アンナ・ガブラーは、美しい容姿に華やかな歌声も美女役にふさわしく、妹ズデンカを歌うのはアニヤ=ニーナ・バーマンも若々しい可憐でけなげなズデンカのせつない思いを歌っていました。マンドリカ役のヴォルフガング・コッホは、ドラマティックな歌声で、フィアッカミッリ役の安井陽子のコロラトゥーラ・ソプラノも良かったと負いました。この作品は初めて見ましたが、深く考えず楽しめました。
Commented by Yasuko at 2014-06-06 22:44 x
興味深く拝読しました。私がこの脚本を見て感じましたのは、アラベラは頭と心を有機的に働かせる意志が弱く、もし自分に相応しい人が現れたらという、運命の出逢いを待ち望んでいる女性で、彼女の両親はアラベラの美貌を餌に賭けの対象にしているような感じがします。アラベラはマンドリーカの求婚を受けたがためらいを捨てきれず、「もう少し踊って娘時代に別れを告げたい」と猶予を乞います。この時点でマンドリーカとアラベラの関係は、狩人と獲物、彼女の独占という対等な人間関係とはいないようです。
Commented by Yasuko at 2014-06-06 23:02 x
続きです。この「娘時代との別れ」の間に誤解が誤解を呼ぶような出来事があり時代が二転三転します。ツデンカのマッテオに逢引を仕掛けた行為は不道徳ではありますが、自己犠牲をも厭わぬ愛を持つ存在として、自己愛の強いアラベラと対象的です。この事件でアラベッラのためらいの試練を卒業し、マンドリーカも真の愛を献身し愛のの結合が成立したのでしょう。『アラベラ』の音楽は、『ナクソス島のアリアドネ』以来の室内楽的な流れを汲む楽器の透明な響きなど音楽しても区べきところの多い作品といえると思います。
Commented by desire_san at 2014-06-07 08:20
Moritania_87さん、。『アラベッラ』を制作したときのR.シュトラウスの生活の変化について詳しくおしえていだき、ありがとうございます。作品の変化にも生活の変化が表れているのでしょうね。
Commented by desire_san at 2014-06-07 08:24
Morさん、ウィーンにはフランス、イタリアなど様々な文化が影響し、この作品も、フランス・オペラ風の遊び心で鑑賞すると違って見えてくるかも知れませんね。参考になるご意見ありがとうございます。
Commented by desire_san at 2014-06-07 08:30
NOGUCHさん、サイトを拝読させて抱きました。詳細に分析、説明されていて理解を深めることができました。ズデンカの仕組んだ混乱が、アラベラやマンドリーカを成長させたとみる子も確かにできますね。
Commented by desire_san at 2014-06-07 08:34
Kinoshitaさん、このオペラのひろいんであるアラベッラ役アンナ・ガブラーとズデンカ役のアニヤ=ニーナ・バーマンは特によかったですね。この二人の存在がオペラを充実させていたと私も感じました。
Commented by desire_san at 2014-06-07 08:37
Yasukさん、サイトを拝読させていただきました。丹念に登場人物の心理などを分析されていて、大変勉強になりました。ご指摘のように、物語を通じての姉妹たちの心の成長が重要な要素となつていますね。

by desire_san