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芸術と自然の美を巡る旅  

ヴェルディの円熟期の人間ドラマ

ヴェルディ『ドン・カルロ』
Giuseppe Verdi ”Don Carlos”
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 ヴェルディの円熟期の人間ドラマが展開するオペラの傑作『ドン・カルロ』が新国立劇場で上演されました。カトリックのスペインによるプロテスタントのフランドルへの圧政と独立運動という歴史を背景に、恋人が父王の妃となった王子の悲しみと親子の対立、愛と友情に嫉妬、登場人物間の複雑な絡み合う人間ドラマを重厚な音楽で描きあげた壮大なオペラです。『ドン・カルロ』は『運命の力』を作り終えた大家ヴェルディは、パリ・オペラ座のために作曲し、1867年にパリ・オペラ座初演されました。初演はフランス語でしたが、いろいろな改訂版が生まれ、今回の新国立劇場で上演は、世界中の歌劇場で一般的に上演されているイタリア語のミラノ版で行われました。



 スペインの王子ドン・カルロの婚約者で、フランスの王女エリザベッタは、政略結婚により父王フィリッポ二世の妃となってしまいます。失意の王子は友人ロドリーゴのすすめで圧政に苦しむフランドル人民の解放に立ち上がりますが、王への造反者として投獄されます。王子に恋心を抱くエボリ公女はエリザベッタへの嫉妬心からエリザベッタの宝石箱にドン・カルロの肖像画を入れ国王の前で彼女を陥れます。宗教裁判所長の刺客にロドリーゴは銃殺されます。解放された王子がフランドルに旅立つ前に、愛するエリザベッタと永遠の別れを惜しんでいる時、国王が現れ二人の逮捕を命じますが、先帝の霊が現れ、カルロを墓に引きずり込みます。

Don Carlos[1] is a five-act grand opera composed by Giuseppe Verdi to a French-language libretto by Joseph Méry and Camille du Locle, based on the dramatic play Don Carlos, Infant von Spanien by Friedrich Schiller. In addition, it has been noted by David Kimball that the Fontainebleau scene and auto da fé "were the most substantial of several incidents borrowed from a contemporary play on Philip II by Eugène Cormon".


 ドン・カルロの祖父は、カルロ5世(カール5世)は、ハプスブルグ家の神聖ローマ帝国皇帝で、ヨーロッパで広大な領地をおさめていましたが、統治に疲れ引退するに当たり、オーストリアの領地と神聖ローマ帝国の地位を弟(カール6世:マリアテレジアの父)に譲り、スペイン他の領地を、息子のフィリップ2世に与えました。フィリップ2世は、「無敵艦隊」と呼ばれたスペイン艦隊を率いて、全世界にスペインの領地をつくり、「太陽の沈まない帝国」と呼ばれるスペイン最盛期を迎えました。フィリッペ2世は、フランドル(現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ周辺の都市)に重税をかけ、カトリックを強制した為、フランドルは独立戦争の道を歩みますが、フィリップ2世がフランドルの新教徒と、通じていた息子のカルロを幽閉したのは実話です。

The opera's story is based on conflicts in the life of Carlos, Prince of Asturias, after his betrothed Elisabeth of Valois was married instead to his father Philip II of Spain as part of the peace treaty ending the Italian War between the Houses of Habsburg and Valois. I

 スペインの王子ドン・カルロは、婚約者であったフランスの王女エリザベッタと相思相愛の関係にありましたが、カルロの父、スペイン王フィリッポがエリザベッタと結婚してしまいます。カルロは義理の母となったエリザベッタへの想いを捨てきれず、エリザベッタも想いは同じですが運命を変えられません。第2幕のドン・カルロの父の王妃となったエリザベッタに、ドン・カルロがエリザベッタに言い寄る二重唱はこの恋愛劇の一つのクライマックスですが、カルロを愛しながらも王妃エリザベッタは拒絶します。

 一方ドン・カルロとロドリーゴは篤い友情で結ばれた2人の青年は、理想を追い求めています。ロドリーゴは圧政にあえぐフランドルの自由を実現しようとしていますが、それは当時のスペインでは危険思想でもあります。政治の理想を求めるロドリーゴと、義母への禁じられた愛を秘めた王子は、第2幕の二重唱で、固く友情を誓い合います。民衆が国王フィリッポ2世を讃えていたとき、そこに王子ドン・カルロがフランドルの使節たちを連れて現れ、フランドルの救済を願い出ます。国王は聞く耳を持たず、興奮して思わず剣を抜いたカルロは、反逆罪で捕らえられ牢に入れられてしまいました。

やがて破局が訪れます。ロドリーゴは撃たれ、友ドン・カルロの腕の中でフランドルへの思いを託しい息絶えます。フランスの王女エリザベッタと結婚した王は、王妃の愛を得られません。第2幕で「彼女は私を愛したことはない」とバスでは最も名高いアリアを歌います。フランドルを弾圧するのは、カトリックとプロテスタントの対立でカトリック側に立つ王は政策に選択の余地などありませんでした。ロドリーゴは殺されて、ドン・カルロは罪を追求されます。王妃もドン・カルロとの不倫を疑われ孤立を深めます。王や王妃の苦悩とは無縁のはずで、第2幕で明るい「ヴェールの歌」を歌うエボリ公女も嫉妬から王妃を陥れて、後悔に苦しみます。愛のオペラとしての『ドン・カルロ』ですが、誰もが抱いた夢を実現できない。誰もが苦悩に支配されます。『ドン・カルロ』は苦悩のオペラでもあります。

 第4幕で月夜の静かな修道院で、昔の幸せを思い出しながらエリザベッタが待ち泣かせら「世の空しさを知る神」と美しいアリアを歌います。そこにカルロが現れますが、二人は永遠の別れを決意します。そこへ、フィリッポ2世が現れ、カルロを捕らえようとします。
『ドン・カルロ』は、とっくに亡くなったはずの先王の声に導かれ、謎めいた結末で終わります。

When performed in one of its several Italian versions, the opera is generally called Don Carlo. The first Italian version given in Italy was in Bologna in March 1867. Revised again by Verdi, it was given in Naples in November/December 1872. Finally, two other versions were prepared: the first was seen in Milan in January 1884. It is now known as the "Milan version". The second, also sanctioned by the composer, was the "Modena version" and presented in that city in December 1886. It added the "Fontainebleau" first act to the Milan four-act version.

 『ドン・カルロ』は、『アイーダ』や『椿姫』と比べ登場人物の心が複雑で多様性と深身がある作品だと思います。円熟期のヴェルディは、オペラをロマンチックで美しい流麗なアリアで飾らず、終幕のエリザベッタが歌う長大なアリアは、深い悲しみで満ちています。シェイクスピアを好んだヴェルディは、オペラで『リア王』や『ハムレット』に劣らない悲しみのドラマを作りたかったのかも知れません。
 
 タイトル・ロールはテノールのセルジオ・エスコバルフランス、ヴァロワ家出身のスペイン王妃エリザベッタはソプラノのセレーナ・ファルノッキア、スペイン王でカルロの父でエリザベッタの夫、フィリッポ2世はバスのラファウ・シヴェク歌いました。カルロの親友ロドリーゴは、バリトンのマルクス・ヴェルバ歌い、宮廷に仕える美女、エボリ公女はメゾソプラノのソニア・ガナッシと充実した歌手陣に、新国立劇場合唱団も熱唱し、ミゲル・ゴメス=マルティネス指揮の東京フィルハーモニー交響楽団の演奏と充実した舞台でした。
















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by desire_san | 2014-12-21 00:03 | オペラ | Comments(9)
Commented by Munerd at 2014-12-15 17:12 x
METのオペラ映画でヴェルディ「ドン・カルロ」をみました。壮大な悲劇の代表作「ドン・カルロ」のテノールとソプラノはロバート・アラーニャとフェルッチオ・フルラネット。やはりヴェルディの悲劇となれば始めから終わりまでドラマティックにストーリーは展開します。アラーニャは始めからハイテンションでとばしてエンディングまで疲れを知らず。フルラネットは少し押さえ気味に始まり品格を出しながら最後でドラマティックに盛り挙げていました。ヴェルディのアリアは特徴のある美しさで、素晴らしいと思いました。
Commented by ゆりこ at 2014-12-15 17:15 x
私も新国立劇場で、筋立ても『ドン・カルロ』を観ました。、音楽もヴェルディの作品ならではの素晴らしさ、今回の新国立劇場の指揮・管弦楽、ソリスト、合唱 ともに申し分のない出来映えで、十分楽しめた。
Commented by Musiloveunt at 2014-12-15 17:33 x
新国の《ドン・カルロ》を私も観ました。4幕のイタリア語バージョンでした。演出と美術はマルコ・アルトゥーロ・マレッリによるやや抽象的なもので、ビスコンティの絢爛豪華なトラディショナル系に比べると一見はちょっと寂しい幹事でした。しかし、このシンプルな舞台美術のお陰で、音楽と歌唱にぐぐっとのめり込むことができるました。カルロ役のミロスラフ・ドヴォルスキーはなかなか力強い歌唱でした。エリザベッタ役の大村 博美は輝きのある良い声でした。エボリはマルゴルツァータ・ヴァレヴスカは高音があまりきれいではなく、フィリッポ2世のヴィタリ・コワリョフはちょっ不足な気もしました。全体としては充分楽しめる内容でした。

Commented by rollingwest at 2014-12-15 22:26
ヴェルディといえばサッカークラブの名前しか浮かばないRWですが造詣深いですね~!大したものです。
Commented by wArgveldi at 2014-12-19 08:47 x
ご貴殿もご存知の通り『ドン・カルロ』の場合ほど異本や異稿がたくさん
あって、しかもその大部分がみだりに無視できないという例は、ヴェルディ
の場合ほかにはありません。
 英語で書かれたヴェルディに関する現在までのところ最大の労作であるジ
ュリアン・バドゥンの『ヴェルディのオペラ』第三巻(1981年)では
「種々様々な置き換えや組み合わせが可能だけれども」と前置きして、その
基礎となる五つの版を挙げ、その詳細な比較を行っています。
Commented by Decorative_45 at 2014-12-19 08:49 x
『ドン・カルロ』の日本人による初演は1981(昭和56)年1月31日、2月1・2日(3回)’81年都民芸術フェスティバルの第13回東京都オペラ・シーズン合同公演として、二期会の主催で東京文化会館大ホールで上演されました。

山田一雄指揮/東京交響楽団  演出:西沢敬一 合唱:二期会合唱団
配役はドン・カルロ:板橋勝/小林一男、ロドリーゴ:栗林義信/大島幾雄
エリザベッタ:片山啓子/岩崎由紀子、フィリッポⅡ世:岡村喬生/高橋大海

この日本人による初演は、イタリア語四幕慣用版を基礎としながら、エリザベッタとエーボリの衣装交換の場面の復活など多少とも原典に近づけるこ
とが試みられています。
Commented by Hobitto at 2014-12-19 15:11 x
オペラでは、王子カルロの友人ロドリーゴがかっこいいですが、これは架空の人物だそうです。
史実では、ドン・カルロは、フェリペ2世の最初の王妃ポルトガル王女マリア・マヌエラの間にできた王子です。すぐ母を失い、父ともあまりうまくいかなかったようです。血族結婚の弊害から肉体的にも精神的にも問題があったようです。その王子が父フェリペ2世に逆らってフランドルに行こうとして捕まり、失意の中自殺同然に死んでしまった事件からオペラではそれにフェリペ2世と結婚した若い王妃イザベルと王子との悲愛をからめた物語になっていますが、史実ではないようです。オペラでは圧政に苦しむフランドルの人々を救うために王子が自分の恋を諦めて旅立とうとしていますが、実物はそんなにかっこいい人ではなかったようです。
Commented by snowdrop-momo at 2014-12-23 05:48
「ドン・カルロ」は最も好きなオペラのひとつです。TVとDVDでしか観たことがありませんが…
カウフマンのイタリア語版、アラーニャのフランス語版、どちらも魅力的ですが、フランス語版の方が幕が多くて嬉しいです。
大審問官と老王のやり取りも聴きごたえがありますね。
Commented by desire_san at 2014-12-23 08:23
snowdrop-momoさん、コメントありがとうございます。
「ドン・カルロ」の初演はフランス語で荘園しているので、フランス語版も聞いてみたいと思っていたのですが、アラーニャが歌うフランス語版もあるのですね。せひ聞いてみたいと思います。第4幕の初めの王の独白とそれに続く宗教裁判長との歌でのやり取りもは、このオペラに厚みを持たせていますね。

by desire_san