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芸術と自然の美を巡る旅  

夢の世界を詩的に描いた画家

ポール・デルヴォー
Paul Delvaux
夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_11304913.jpg


ポール・デルヴォーはシュルレアリスムの画家でも、特に詩的な感性を持った画家だと個人的には思っています。東京の府中市立美術館で久しぶりにポール・デルヴォーの本格的な回顧展が開かれていましたので、それ以前に来日したポール・デルヴォーの好きな作品も含めて、ポール・デルヴォーの絵画について整理してみました。



ポール・デルヴォー(1897-1994)は、ベルギーのシュルレアリスム絵画を代表する画家です。ポール・デルヴォーは裕福で教養のある家庭に生まれブリュッセル美術アカデミーに入学しました。

Paul Delvaux (1897–1994) was a Belgian painter associated with Surrealism, famous for his paintings of female nudes.

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_11315391.jpg 最初は印象派や表現主義の影響を受けた絵も描いていました。依頼に応じて描いたフレスコ画も残っていますが、その作品には天上の楽園のような解放感があり、空間構成の確かさはこの頃から育っていたようです。

一時は風景などを繰り返し描いていましたが、風景画を描くことに飽き足らなくなり、展示会に足を運び、骸骨や人体の標本を並べた博物館に足を運びました。そこで恐怖心にも通ずるような強烈な印象を受けました。その当時歳年上のデ・キリコや同年代のマグリットの影響を受け、フロイトの思想らにも触発されてシュルレアリスム運動の世界に引き込まれていったようです。シュルレアリスムとの出会いは、今までの自分の買い絵画を縛っていた合理的理論主義を乗り越えてデルヴォーは制作活動の自由を獲得したようです。

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_1134584.jpg そのころからデルヴォーの作品には「骸骨」と「女」というモティーフが登場するようになりました。骸骨には死のイメージがなくてみんな生きているように描かれています。時には骸骨が服を来た女性とおしゃべりしているような表現もしています。デルヴォーは骸骨を博物館で見ていたこともあり、デルヴォーにとって骸骨は他の画家のように人生のはかなさを象徴する寓意的な意味はなく、純粋に生命の本質として描いていたようです。人間の原型とも言える骸骨が始原にまで連れて行ってくれそう気持ちを持っていたのかもしれません。

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_11373195.jpg またデルヴォーの描く女性は裸婦の姿が多いですが、それは純潔の恥じらいを身につけた裸婦であり、エロティシズムをあまり感じさせません。デルヴォーにとって裸婦は自らの魂であり精神であったようです。デルヴォーの女性たちは、完全に自らの世界に漂って生きおり、下界の世界に全く気をとどめることなく外のあらゆる世界から独立しているかのようです。絵を見る人はデルヴォーの描く女の園の中に立ち入れないような空気を感じます。精神の純潔さを守るために、人気のいない夜の風景の中でこころゆくまで裸の魂の賛美しているようでもあります。

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_11384816.jpg古代のような風景の中をさまよう女性たちは精神的な儀式を行っているような雰囲気を持っています。古代風景に身を委ねる女性たちは後光を放っているかのようで、崇拝の対象とさえ思えるほど清楚な印象を受けます。夜の画面であるようですが、明るく穏やかな光の中に女性像は描かれ、女性たちは絵画の画面の中に閉じ込められていて、絵の外の世界が現実で絵の中の世界は夢の世界のようにも感じられます。時にはうしろ向きの少女が描かれたりしていることもありますが、これは観る人がうしろ向きの少女の目をとおして他の裸婦たちを見ていることを意味していると解説されています。

Delvaux acknowledged his influences.With him I realized what was possible, the climate that had to be developed, the climate of silent streets with shadows of people who can't be seen, I've never asiked myself if it's surrealist or not. Although Delvaux associated for a period with the Belgian surrealist group, he did not consider himself. Delvaux always maintained an intimate and privileged relationship to his childhood, which is the underlying motivation for his work and always manages to surface there. This 'childhood,' existing within him, led him to the poetic dimension in art.

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 デルヴォーの作品は極めて正確な表現で自制の裸体を官能的に描いていますが、それにも変わらず作品は観る人にエロティシズムをあまり感じさせません。デルヴォーの描く女性たちはうつろな瞳のさまよう静かで我々が知らないような冷たい世界に存在するように感ずることもあります。彼はエロティシズムを精神の交わりととらえていたようで、私生活は知りませんが少なくても絵画の世界ではプラトニックな感情しか抱いていなかったようです。その点では同じシュルレアリスムの画家でも、エルンストやダリとは一線を画していました。

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_11375763.jpg 時折シルクハットの男が画面に登場しますが、男と過剰な羞恥心身につけているようで、美しい裸婦に眼もくれていません。シルクハットの男は裸婦たちの自然な行動、一糸まとわぬ姿にただ茫然と立ち空くすだけです。ナイーブな情念すら抱いていないようでもあります。

The paintings Delvaux became famous for usually feature numbers of nude women who stare as if hypnotized, gesturing mysteriously, sometimes reclining incongruously in a train station or wandering through classical buildings. Sometimes they are accompanied by skeletons, men in bowler hats, or puzzled scientists drawn from the stories of Jules Verne. Delvaux would repeat variations on these themes for the rest of his long life, although some departures can be noted. Among them are his paintings of 1945-47, rendered in a flattened style with distorted and forced perspective effects, and the series of crucifixions and deposition scenes enacted by skeletons, painted in the 1950s.

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_1146898.jpg ポール・デルヴォーの作品には汽車がよく登場します。時間が止まったような夕暮れの駅に汽車がはきだす煙が駅の風景の中で時間を刻んでいるようです。多くの作品では都市や平原に駅や電車が描かれ、汽車が止まっていて、少女が背中をむけて立っています。汽車と一緒にそこで働く労働者たちが描かれていることもあります。遠くに見える建物は夕暮れの空の中で静かな風景も描かれ一瞬の風景を切り取っているようでもあります。街並みや森の向こうに広がる空に吸い込まれていくようです。しかしそれは見たこともない外国の風景のようで、幼いころの思い出を見ているような懐かしさが漂います。時には古代神殿の立ち並ぶ風景を電車が走り、これも現実の風景ではない夢の世界のように感じます。

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_11481666.jpg デルヴォーの作品には、電車、神殿、ランプ、骸骨、女性など同じモティーフをくり返し描いていますか。それは画家の個人的な体験や日常生活と結びついており、自分の身の回りの物を糸口にして現実世界と超現実世界がつながる扉を開こうとしたのかもしれません。しかし、それは観る人に夢の世界と現実世界が一続きのような不思議な空間体験を与えるかも知れませんが、決して現実社会の現実に人を弾き戻してしまうことはないように思います。

夢の世界を詩的に描いた画家_a0113718_1148558.jpg ポール・デルヴォーは現実を超えた世界を描くシュルレアリスムの画家のなかでも、とりわけ幻想的な作風現実をある種の夢として描き、詩的な感性を込めた夢のような虚構の世界を描きました。超現実的な世界を通じて人間の真実を表現しようとしたと言えるかもしれません。
(2012.11.4 府中市立美術館)







参考:シューリアリズムについては詳しくは下記を参照ください。(文字をクリックするとリンクします)
シュルレアリスム

この美術展は以下のように巡回します。
~11月11日(日) 府中市美術館
2012年11月17日(土)~2013年1月14日(月・祝) 下関市立美術館
2013年1月22日(火)~3月24日(日) 埼玉県立近代美術館
2013年4月6日(土)~5月26日(日) 岡崎市美術博物館


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by desire_san | 2012-11-06 00:26 | 美術展 & アート | Comments(19)
Commented by Ruiese at 2012-11-06 16:58 x
こんにちは。
私も府中市立美術館でポール・デルヴォー展をみにいきました。dezireさんのブログを見てみたことのないようなすてきな絵がたくさん載っていて、はじめ私は良い作品を見落としてしまったのかと思ってしまいました。良く読んで以前日本に来たポール・デルヴォーの優れた差君品を紹介されているのだとわかりました。このようにポール・デルヴォーの絵画を総合的に解説していただけると私も理解が深まったような気がします。ありがとうございます。またこのような記事を期待しています。
Commented by 蛍石 at 2012-11-06 17:10 x
お言葉に甘えて、早速お邪魔しています。
デルヴォーは高校生の時になんとなくポスターが気になって見に行ったらハマりました。非現実的な光景なのに何故か違和感が無くて。一番驚いたのは、小さい頃に見た非常に印象的な夢の光景に似ている絵があったことでした。夜の駅と汽車の絵だったと思います。後から思うと、そんなモチーフはいくらでも描かれていて、今となってはどれが10代の時に衝撃を受けた絵かはっきりしないのですが(汗)その当時は、夢日記を書いていたほど夢に興味があって、夢の光景を描けるってスゴいなあと感動した次第です。こんな風に書いていたら、また実物を見に行きたくなってしまいました。画集では、やはりあの感動はないですから。押し花と生花ほどのほどの差ですよね!...なんだか初コメントなのに長文で失礼致しました。
Commented by 3.tomy at 2012-11-06 18:33 x
こんにちは。

とても沢山の作品紹介で興味深く記事を読むことができました。今回はほんとうに久しぶりの作品展だったようですね。
このような独特の世界を描く画家の作品をみると、その時代背景、個人的な家庭・教育などの影響などとても興味深くなっていきます。

私個人としては、夜みるのはちょっと怖いかも・・・と感じるものもあり、そう感じさせるというのも面白いものだなぁ~と思いながら見学しました。


Commented by desire_san at 2012-11-06 19:12
Ruieseさん、蛍石さん、3.tomy さん  コメント頂きありがとうございます。
ポール・デルヴォーの本格的な回顧展は20年ぶりくらいではないでしょうか。画家も人間なので傑作とそうでない作品があると思いますが、今回は傑作と言える作品がかなり見られたと思いました。ポール・デルヴォー単独の美術展以外でパラパラと傑作が来ていたので、この機会にまとめて紹介させていただきました。個別の作品として説明しにくい画家なので総論的な話になってしまったこと、お許しください。
Commented by eclipse at 2012-11-06 21:56 x
たくさんの作品画像と、詳しい解説を拝見でき
とても勉強になりました。
最後の「超現実的な世界を通じて人間の真実を表現しようとした
と言えるかもしれません。」に、なるほど~と共感も。
現代社会に通じる何かがあるので?違和感があるようで無いような・・・
意味不明^^ゞ
個人的には、クールな色使いが魅力的だと思います。

他のページも回って行きますね・・・ ありがとうございました!
Commented by tabinotochu at 2012-11-06 22:33
こんにちは(もうこんばんは、でしょうか)。
コメントいただき、大変ありがとうございました。デルヴォーはとても素敵だと思います。おっしゃっている通り、女性の裸体にもエロティシズムはあまり感じられず、全体に静かな夢幻的な世界にいざなってくれます。今回はバランスのとれた、とてもよい作品選択になっていたと思います。詳細なブログ、すごく勉強になりました。府中の会場を思い出しました。
Commented by 智子 at 2012-11-06 23:35 x
こんばんは。
ポール・デルヴォーの傑作はこんなに日本に来ているのですね。
全部見られたのですが。すごいですね。
Commented by colors-interior at 2012-11-07 09:10
おはようございます、コメントありがとうございました…鹿児島展は、夏休み企画で開催されたのですが、子供達がどんなふうに理解するのだろうか!?と…複雑な思いでした。作家として親から受ける強烈な精神的抑圧が産み出した作品、ベルギーと言う風土が育てた作品、シュールでありながら宗教的な意味を強く感じました。
Commented by たびぱぱ at 2012-11-07 12:41 x
こんにちは!
素晴らしい評論ありがとうございました~!
結局僕は観に行けなかったので、デルヴォーがどんな画家なのかよく分かって感謝しています。
次回機会があれば、是非観に行ってみたいなぁ~と思いました。
Commented by desire_san at 2012-11-07 17:24
eclipseさん、tabinotochu さん、智子さん コメントいただきありがとうございます。
eclipse さんが書かれているように、「現代社会に通じる何かがあるような無いような、違和感があるようで無いような・意味不明」な雰囲気を見る人に与えるのがポール・デルヴォーの狙いなのかもしれません。
tabinotochuが書かれているように、女性の裸体にエロティシズムが感じられずただ静かな夢幻的な世界に誘われるのは魅力そのものかもしれませんね。
Commented at 2012-11-07 17:28
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mamayumayu at 2012-11-07 22:26
こんばんは。
コメント頂きありがとうございます。

私は子供の夏休みの宿題の為、美術館へ出かけた次第で、詳しくはないのですが・・・
とても勉強になりました。
お友達のママとも裸体が多かったのが芸術の鑑賞とは言え・・・
と、そこが話題になったのが率直な意見でした。
館内には鹿児島市内の中学生が多く、みな課題の為訪れてました。
とは言え、身近にある美術館で実際に作品にふれる事も大切なのかもしれません。
この夏は、霧島市にある「アートの森」へも行ってみました。
現在は「加藤泉展」を開催中のようです。
先日まで開催されていた「大桜島公募展」に行けなかったのは残念でした。

また色々勉強させて頂きます。
Commented by desire_san at 2012-11-07 23:14
mamayumayuさん
子供の頃から美術に親しむ習慣は大切だと思います。今の若い人たちは就職難などで生活に疲れてい寝人が多く、子供のころから美術や音楽に親しんでいないと、美術や音楽が心を嫌し、生きる喜びを感じさせてくれることを知らずに生きてしまいます。子供のころから美しいものを美しいと感じる感性を養っておくことは大切だと思います。
Commented by tadasu24 at 2012-11-08 23:27
コメントを頂き、ありがとうございました。
府中のデルボー展、もうすぐ終わってしまいますね。

デルボーの描く女性は、表情がなく、セクシーでもないが故に、
触れることのできない崇高な女神様のようですね。
Commented by はるこ at 2012-11-10 00:48 x
デルボーは私が20代に好きな画家の一人でした。
、、というか、その頃私が結婚していた日本男児が
デルボーの大ファンでした。
かなり影響を受けてる、と思います。
山下清澄という銅版画家です。
彼とは一緒にドイツ旅行もしましたが、離婚して、友達になりました。私事で、、、スミマセン。
デルボーの作品を見ると昔を思い出しましたので、、
Commented by desire_san at 2012-11-10 07:36
はるこさん
山下清澄さんの作品を拝見しました。ポール・デルヴォーの世界と通ずる現実を超えた幻想的で詩的な夢の世界を描かれた芸術家ですね。
ご紹介いただき、ありがとうございました。
Commented by marinji at 2012-11-11 23:06
こんんばんは。コメントありがとうございました。
デルヴォーの絵をきちんと見たのは今回のが初めてだったので、こちらで他の絵も見ることができて嬉しいです。デルヴォーの絵、夢のようで素敵ですよね。府中市美術館は今日で終わりですが、来年埼玉にまた見に行きたいです。
Commented by ディック at 2012-11-17 10:37 x
 dezire さん、
 ぼくは絵画との付き合いは学生時代のシュルレアリスムとの付き合いから始まったといってもよいでしょう。
 シュルレアリスムというのはダダから始まったように、ぼくの中ではもう少し過激な印象を抱いていましたから、ポール・デルヴォーっていったい何なのだ、みたいなところがありました。
 たとえば女性の描き方。この画家はただ下手なんじゃないか、と思ったこともあるのです。いまでも、もしかして生き生きとした女性を描けないのではないかと…、思わないでもありません。
 ただ、その後ベルギー象徴派展など見てきて、ベルギーという国の、これが文化の特質なんだろうかと思うようになりました。
 文章のひとつひとつ興味深く読ませていただきました。デルヴォーの描き方をとても好意的に描写されていて、ぼくなんぞは好みが先に立つから、それでもなあ「どうもなあ…」なんて思うのですが。
 ポール・デルヴォーの生の絵は、おそらくは十点弱して見ていないと思います。今度こそデルヴォーの理解を試みようと不調までの遠征も考えましたが、他方でやはり好みがありますから、わざわざ遠くまで…という気持ちもあり、結局展示期間が過ぎてしまいました。
Commented by desire_san at 2012-11-19 16:01
ディック さん、コメントいただきリがとうございました。
シュルレアリスム絵画は実は私も苦手の領域です。抽象絵画は、カンティンスキーでも、モンドリアンでも、ポロックでも、結局絵画空間に美しい世界を創ろうとしている、美を追求しているという意味では、ルネサンス以降の絵画やに日本画と同じ見方で見ることができます。美意識や方法論の違いがあるだけで、それがある程度分かれば素直に美しいと感じることができる世界だと思っています。もちろんそれを美しいと思わないのは自由ですが。
 シュルレアリスムの絵画はその画家の夢とか幻想の世界を描いているらしいのですが、人の心の中など分かる訳がなく、いくらせ説明されても分からないものは分からない、ポール・デルヴォーの良さが分からないといわれる方がいるのは当然だと思います。今回のポール・デルヴォーの美術展でもどこがよいのか分からないものもたくさんありました。 ただ私の場合、ポール・デルヴォーの作品に美意識として共感できるものもありますので、比較的好きなものだけ選んで、どこに魅力があるのか考えてみた次第です。

by desire_san