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芸術と自然の美を巡る旅  

快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くフランスオペラ

オッフェンバック 『ホフマン物語』
Jacques Offenbach:The Tales of Hoffmann
快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くフランスオペラ_a0113718_1320335.jpg


 新国立劇場の「ホフマン物語」の上演は10年ぶり、フィリップ・アルローの演出で戻ってきました。機械の絡繰り人形・オランピア、病弱な歌手・アントニア、高級娼婦・ジュリエッタの魅惑的で幻想的な夢の世界に迷い込むホフマン、夢と現実と交錯した世界を美しく描いたオペラで、10年前も確かこの演出で見ましたが、歌手陣も変わり、演出も少し変わったようで10年前とは少し違った印象を受けました。



The Tales of Hoffmann is an opéra fantastique by Jacques Offenbach. The French libretto was written by Jules Barbier, based on three short stories by E. T. A. Hoffmann.

 パリではマイヤベーアらのグランドオペラの最盛期でしたが、オッフェンバッは、小さな劇場小屋を手に入れて、「天国と地獄」というオペラより軽く、親しみやすいバレエも入る「喜歌劇」で大成功し、「オペレッタ」という新しいジャンルを確立しました。以降数110作ものオペレッタを制作して数々の傑作を生み出し、当時引退していたロッシーニから「シャンデリゼのモーツアルト」 という最高の賛辞を受けるほどでした。

快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くフランスオペラ_a0113718_8204377.jpg オペレッタで不動の地位を確立したオッフェンバックが、最晩年に自分の持てる力をすべて投入して、生涯の夢であったグランドオペラの制作に挑戦しました。それが「ホフマン物語」でした。現実と3つの全く異なった不思議な恋の物語の夢で構成され3つのオペラのオムニバスのような形式です。機械人形オランピアのコロラトゥーラ・ソプラノもアリアは、「ホフマンの舟歌」、ホフマンの歌う「クラインザックの歌」など音楽も魅力的です。このオペラはオッフェンバックが完成間際に亡くなってしまったため、オーケストレーションなどが完成しなかつたため、友人の作曲家エルネスト・ギローが補筆により音楽は完成しましたが、オペラとしての決定稿が存在しないため、プッチーニの未完の遺作「トゥーランドット」と同様、舞台は演出家により様々な演出の妙が楽しめ、オッフェンバックの描いた夢の世界も、変幻自在に表現されます。

Hoffmann is the protagonist in the opera.The Muse appears andtakes the appearance of Hoffmann's closest friend, Nicklausse. The prima donna Stella sends a letter to Hoffmann, requesting a meeting in her dressing room after the performance. Hoffmann start telling the audience about his life's three great loves. Olympia, an automaton created by the scientist Spalanzani, Antonia who will die by singing and love Hoffmann,Giulietta who trick Hoffmann and take away the shadow of Hoffmann. “The Tales of Hoffmann” is the opera Hoffmann sings nightmare of love fascinating.

快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くフランスオペラ_a0113718_13241698.jpg【第1幕】 時は19世紀、舞台はニュルンベルクの歌劇場の近くの酒場。詩人ホフマンは、ソプラノ歌手ステッラを待っています。オペレッタの作曲家オッフェンバックの作品らしく、カンカン踊りなどミュージカル的な華やかな踊りが舞台に展開されます。待ちくたびれホフマンは親友ニクラウスとお酒を飲みながら、「クラインザックの歌」で過去の失恋話を語り始めます。ホフマン役のアルトゥーロ・チャコン=クルスは、歌もよかったですが、コミカルな動きなど演技力も見事で、舞台にエンターテイメント的雰囲気も持たせていました。

【第2幕】一人目の恋人、機械仕掛けの人形オランピアが蛍光色の黄色を効果的に使った舞台が現れます。オランピアは10年前と同じ幸田浩子さん、当時は期待の若手ソプラノで私が幸田浩子さんの存在を初めて知った舞台でした。このオランピア役で、外国人招待歌手に負けない歌唱力と存在感を見せ、将来絶対日本を代表するソプラノになると思っていましたが、10年後日本を代表するソプラノ歌手として新国立劇場に同じ役で戻ってきました。滑稽なメイクで黄色の蛍光色の大きなスカートで登場し、一段と存在感を増したコロラトゥーラ・ソプラノのオランピアのアリアが装飾音も交えて聴かせてくれました。オランピアはネジが切れてしまい、あわててネジをまき直すと歌いだすコミカルな演技も余裕たっぷり、みごとなアリアを聴かせてくれました。彼女の一段と成長した歌唱に満場の拍手が答えていました。ホフマンは、人形作り師コッペリウスに売りつけられた不思議なメガネをつけていたので、オランピアに恋してしまいます。アリアの後でオランピアはクルクルと回り続け壊れてしまいます。
 
快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くフランスオペラ_a0113718_13243734.jpg【第3幕】二人目の恋人は病弱な歌手アントニア。黒い舞台で、長いテーブルと椅子が斜めに突き刺さっているし、床も傾いて全体的に歪んでいる舞台演出です。
アントニア歌手だった母親のように死んでしまうと恐れて父親から歌うことを禁じられています。アントニアに恋するホフマン。邪悪な医師ミラクル博士の勧めでアントニアは歌い始めます。アントニア役の浜田理恵さんははしっとりと落ち着いた声で、ホフマンとアントニアの二重唱は魅せられました。母の声に操られて死ぬまで歌い続け力尽きて死んでしまいます。
 
【第4幕】次の恋人はヴェネツィアの高級娼婦ジュリエッタ。赤い舞台で、天井の鏡はホフマンが 鏡にうつる”影”を奪われることの象徴でしょうか。ジュリエッタは宝石をもらって魔術師ダペルトゥットに、ホフマンを誘惑してホフマンの「影」を手に入れるようとします。有名な「舟歌」のシーンは本物の舟が使われていました。ジュリエッタ役の横山恵子さんがとホフマンをジュリエッタが誘惑する2重唱が魅惑的でした。ホフマンの影を手に入れると、ジュリエッタはホフマンを棄ててゴンドラに乗って去ってしまいます。
 
快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くフランスオペラ_a0113718_132545.jpg【第5幕】舞台はプロローグのときに戻り、学生たちの喧騒ホフマンはこれらの悲しい失恋話を語り終えると、酔い潰れてしまいます。そこへ恋人のソプラノ歌手ステッラがやってきますが、上院議員リンドルフがホフマンの酔い潰れた姿を見せ、彼女の手を取って連れ去ってしまいます。


ホフマンの親友ニクラウスは、実は芸術の精ミューズの化身でした。酔い潰れたホフマンにミューズは、夢で見た3人の恋人はステラの女としての3つの面を示したものであることを語ります。ホフマンに「詩人としてよみがえりなさい。人は恋によって大きくなり、涙によってさらに大きくなるのです」とホフマンの魂を慰めるかのような歌い、感動的なフィナーレというのが確か10年前の舞台だったと思いますが、今回の舞台では、ホフマンが原作にないピストル自殺してしまい、ミューズの「詩人としてよみがえりなさい・・・」のアリアの意味が良く分からなくなってしまいました。ミューズは女性でなく、芸術の精であることを示したかったのでしょうが、ホフマンは世俗の女性との恋に生きるのではなく、芸術のために生きなさい、というのがテーマではなかったのでしょうか。そうだとしても。ホフマンのピストル自殺はテーマを曖昧にしてしまい、無い方が良かったと思いました。

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 それは置いておくとして、「ホフマン物語」は、ホフマンが幻想的で魅惑的な悪夢にとりつかれますが、健康的な夢に自分を取り戻すという単純なお話なのでしょうか、オッフェンバックのオペラは、悪い夢には、健康的な夢には及びもつかないほどの快楽と陶酔の世界があるということを、今回の演出に限らず魅惑的な音楽で感じさせてしまうところがあります。このオペラの魅力なのでしょう。このオペラを見に来る人は、オペラの中で悪い夢の快楽に満足して健康的な夢を見る生活に戻るのでしょう。

 10年前と比べてアンジェラ・ブラウアーのミューズやアントニアは小粒になって、主役はアルトゥーロ・チャコン=クルスが歌うホフマンというイメージが強くなった舞台のように感じました。それ以上に感じたのは、「ホフマン物語」の5幕に渡る舞台が、第1幕、第2幕のような軽妙なオペラッタ的な舞台と、第3幕以降のシリアスなオペラ的舞台の2面性をもち、それが狂言回し役のリンドルフ/コッペリウス/ミラクル博士/ダベルドゥット4役をこなすマーク・S・ドスの存在により、交錯していくのを音楽で表現している面白さでした。東京フィルハーモニー交響楽団を指揮したフレデリック・シャスランの音楽の転換の切れ味は見事で、このオペラを見語に演出していました。今回の「ホフマン物語」で一番良かったのはオーケストラの演奏だったとさえ感じました。
(2013年12月1日(日) 新国立劇場オペラパレス)






















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by desire_san | 2013-12-18 00:28 | オペラ | Comments(19)
Commented by 深夜便 at 2013-12-10 21:36 x
こんばんは。詳細にわたる観劇レビューを拝読し、あたかも走馬灯のように、実際の舞台を観た記憶が脳裏を駆け巡りました。私の記憶を、言葉として留めてくださったことに感謝しております。
Commented by desire_san at 2013-12-11 08:24
深夜便さん、コメントありがとうございます。
私も、舞台の感動を思い出せるように、心に残ったことはできるだけ記録に残しておこうと思い書いています。詠んで頂いて少しでもお役にたてると嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。
Commented by edc at 2013-12-11 08:25 x
こんにちは。今回は行きませんでしたが、忘れられない演出のひとつです。desireさんがコメントしてくださり、こちらの詳しい記事を読み、私も記憶が甦りました。
Commented by Masayuki_Mori at 2013-12-11 08:40 x
フィリップ・アルローの演出は、幻想的恋物語の感じがよく出ていました。オランピアのコロラトゥーラ・ソプラノのアリアの場面やホフマンの舟歌の場面など、オッフェンバックのファンタジックなオペラを光を上手に使って演出していたと思います。ただ、ご指摘のように、ホフマンのピストル自殺は意味不明、原作にないとしたら死なせる意味はないように思いました。
Commented by Keiko_Kinoshita at 2013-12-11 08:45 x
こんにちは。今回は見ていませんが、フィリップ・アルローの演出は、「アンドレア・シェニエ」がよかったですね。光と群集の動きを見事に生かした演出でした。ブログをよませていだき、見に行けば良かったとちょっぴり公開しています。(笑)
Commented by desire_san at 2013-12-11 09:04
edc さん、コメントありがとうございます。前回行かれたのでね。
ミューズは前回の方が存在感と迫力がありました。前回は記憶によるとホフマンは自殺せず、酔って倒れているところを女性に戻ったミューズに励まされる演出だったと思いますが、ミューズの愛によるラブストーリーのハッピーエンドのような雰囲気になったので、ミューズは人間の除来でないことを理解させるために、ホフマンに自殺させてしまったのかも知れません。前回は佐藤しのぶさんのビブラートを聴かせすぎたアリアが不評だったようです。オペラは歌手のバランスやちょっとした演出の違いで同じ作品でも印象が変わってしまうので難しいですねね。
Commented by desire_san at 2013-12-11 09:11
Moriさん、Kinoshita さん、コメントありがとうございます。
フィリップ・アルローの演出は全体としてよかったと思います。それだけにホフマンのピストル自殺は残念な気がしました。Kinoshita さんが言われるように、、「アンドレア・シェニエ」の演出は最高に良かったです。ドラマティックな無いようなのでこちらの方が演出しやすいのでしょうか。「ホフマン物語」のような奇想天外な話は、演出が難しいのではないかと思いました。
Commented by Angerica at 2013-12-11 11:55 x
おもしろく読ませていただきました。オッフェンバックは、「天国と地獄」の地獄のオルフェなど、オペラレッタの作曲家だけあって親しみ深い歌を作るのはうまかつたようです。「ホフマン物語」の舟歌は、「美しい夜、おお恋の夜、喜びに微笑む、またとない甘き時間・・・過ぎ行く時は 戻ることなく・・・・またとない甘き時間、 恋の夜よ!恋の夜よ!」と刹那的な一時の享楽の恋を歌っています。ジュリエッタの生き方を象徴しており、dezireさんが名づけている快楽と陶酔の悪夢を魅惑の世界に描くオペラ「ホフマン物語」を象徴している歌のように私には思えます。
Commented by 山脇由美 at 2013-12-11 15:39 x
こんにちは。
些細なことで恐縮ですが、『ホフマン物語』をフランスオペラとされておられますが、オッフェンバックはご存知と思いますがドイツ人です。オッフェンバックの『天国と地獄』などが人気となった軽い小オペラはオペレッタと呼ばれ、元々ドイツ人のオッフェンバックはウィーンを訪れてドイツ語版上演をし、ヨハン・シュトラウス2世など才能ある作曲家により、ウィーンを舞台にオペレッタの名作が生れました。オペラ「ホフマン物語」は人気が落ちてきたオッフェンバックが再起をかけて、作曲しましたが、完成を待たずに世を去ってしまいました。パリのオペラ=コミック座で初演されたので、フランスオペラに分類してよいとは思いますがね雰囲気としては、パリというより世紀末のウィーンの雰囲気に近いような気がします。
Commented by Ruiese at 2013-12-12 08:29 x
「ホフマン物語」は私も見ました。これは私の感じたことですが、詩人はボードレール、ランボー。ヴェルレーヌもそうでしたが、理想の女性を求める習性があり、理想の愛の追求を生涯求めてやまない、高嶺の花を求めるため、求めても求めても手が届かない。そんな芸術家の姿を、「ホフマン物語」を表現したかったのではないでしょうか。
Commented by kana-smart at 2013-12-12 21:20
やはり幸田浩子さんが最高でしたね!来年は大野和士のリヨン歌劇場の引越公演があるので楽しみです。
Commented by 失われたアウラを求めて at 2013-12-12 23:29 x
こんにちは。私は10日に鑑賞して来ました。実演は初めてのせいもあり、大変美しい舞台で、音楽にも感動しました。ずいぶんと詳細な内容のブログで、記憶力低下が顕著な最近の私には、とても有益な備忘録になりました。
Commented by ゆき at 2013-12-13 02:09 x
こんにちは。わたくしめのおちゃらけたブログにまでご丁寧に足跡を残していただきありがとうございます。
dezireさんのブログを拝読いたしまして、当日の舞台が鮮やかに蘇りました。10年前にも同じ舞台があったのですね。比較できるだなんて贅沢な味わい方だなぁと羨ましい限りです。
私のつたないレベルで感想とはおこがましい限りですが…。
ホフマン物語はオペレッタ的な要素が私も楽しみのひとつと感じていました。今回のオランピアのシーン、ひな壇的な並びだなんて泥臭いけどいい味わい!と楽しんでおりました。アントニアやジュリエッタのシリアスな物語も含めて「人生ひきこもごもだよね」ってとこが面白さだよなぁと思っていただけに、ラストの衝撃をちょっと残念に思ったのも事実です。
dezireさんのご意見、大変勉強になりました。いつか私も、この10分の1でいいからまともな(真面目な?)感想が述べられるよう、今後もオペラ通いしたいと思います。
Commented by ケーエス at 2013-12-14 23:14 x
コメントありがとうございます。
ホフマン物語を観るのは今回で2回目で、CDやラジオでも聴いたことが無く難しいことはわからないのでdezireさんの見方は参考になります。
Commented by desire_san at 2013-12-17 16:30
Angericaさん、山脇さん、コメントありがとうございます。
山脇さんがご指摘のようにオッフェンバックはドイツ人ですが、『ホフマン物語』はパリで生まれたオペラであり、Angericaさんがご指摘のように、ジュリエッタの享楽の恋を歌った舟歌のアリアはこのオペラの雰囲気を象徴するもので、マスネの世界のようで、いかにもフランス的だと思います。
Commented by desire_san at 2013-12-17 16:47
Ruiese さん、 kana-smartさん、ありがとうございます。
詩人は理想の愛の追求する人、そうかもしれませんね。
ただ、最初に登場するのが機械仕掛けの人形オランピアというのは、オペレッタの達人オッフェンバックらしいおもしろい演出ですね。kana-smartさんがコメントしていただいたように、幸田浩子さんのオランピアはすばらしかったですね。10年前も良かったですが、一段と存在感をが豊かになったように思いました。
Commented by desire_san at 2013-12-17 17:00
失われたアウラを求めてさん。いつもありがとうございます。
オペラに限らずですが、一度鑑賞したり、旅行で見たりしただけではやはり忘れてしまうので、時間の許す限り詳しく書くように努めています。
こちらからも音楽のブログ時々拝見しています。よろしかったらまたのぞいてください。
Commented by desire_san at 2013-12-17 17:07
ゆきさん、コメントありがとうございます。
ホフマン物語はオペレッタをオムニバスでつなげたような要素があり、「人生ひきこもごも」の雰囲気が出ていますね。最後のホフマンのピストル自殺は、10年前の舞台ではたしかなかったような気がします。
Commented by desire_san at 2013-12-17 17:12
ケーエスさん、私も『ホフマン物語』は3回目ですが、オペラはチケット代が高いこともあり、CDを聴いたりして予習していきます。そして見た後復習のためブログに書いています。予習と復習をすると、結構理解が深まります。まるで学校の勉強のようですが。

by desire_san