レンブラントの最高傑作『夜警』の魅力と感動
アムステルダム国立美術館 Ⅰ
Rijksmuseum

私がアムステルダム国立美術館に訪れた最大の目的、というより唯一の目的に近いかもしれませんが、それはレンブラントの最高傑作『夜警』を生で観たかったからです。どんな優れた画家でも、最高傑作と言われる作品を観なければその画家の才能の半分も感ずることができない、という経験を何度も味わってきましたが、レンブラントについてはそれ以上の衝撃を受けました。
レンブラントは日本でも人気が高く、たくさんの作品を日本で見ており、それなりのレンブラント感を持っていました。それは一度「来日した名画を回顧してレンブランドの魅力をさぐる」というテーマでレポートしていました。
レンブラント 光と、闇と、 文字をクリックするとリンクします。
自画自賛になって恐縮ですが、このレポートはレンブラントの絵画の魅力をかなり的確に整理していると今でも思っています。しかし、レンブラントの『夜警』は私ごときが書いたレポートでは表現しきれない魅力を感じ、今までレンブラントという画家の偉大な才能の半分も体験していなかったことを思い知らされました。月並みな表現ですが、レンブラントの『夜警』は美術史に燦然と輝く金字塔だと確信するほど、この作品には魅力がありました。
レンブラント『夜警』1642年 The Night Watch
正式な題名は『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ラウテンブルフ副隊長の市民隊』となる。レンブラントの代表作であるのみならず、オランダ黄金時代の絵画の代表作といえる絵画史上に輝く傑作です。
TheNight Watch:Militia Company of District II under the Command of Captain FransBanninck Cocq,[1] also known as The Shooting Company of Frans Banning Cocq andWillem van Ruytenburch, but commonly referred to as The Night Watch (Dutch: DeNachtwacht), is a 1642 painting by Rembrandt van Rijn.
アムステルダム国立美術館の正面階段を上ると、その一番奥にレンブラントの『夜警』のための部屋があります。 レンブラントの作品では類のない巨大な画面(縦3メートル63センチ、横4メートル37センチ)が意表を突きます。その巨大な画面は、レンブラントの作品を多く見ている私でも、光と影の使い方の見事さに圧倒されます。
当時の肖像画は不動の姿勢で描くのが常識でしたが、『夜警』では軍隊や自警団の集団肖像画に動きの要素を取り入れました。『夜警』は火縄銃手組合による市民自警団(市民隊)が出動する瞬間を描いています。黒い服に隊長の印である赤い飾り帯を斜めにかけたコック隊長と、その右横に黄色の服を着たラウテンブルフ副隊長は隊を率いて動き出そうとしています。その周辺では銃に火薬を詰める隊員や銃を構える隊員、ドラムを構える鼓手、後ろでは旗手のコーネリッセンが隊旗を掲げています。人々が一斉に動き始めたため、その下では犬が吠えたて、左で少年が走り回っています。各隊員はそれぞれ異なった方向に体を向け、多様な表情を見せており、隊員の動きが交錯して画面がその時の人々の興奮と臨場感が伝わってきます。ほとんどの人が体の一部分しか画面に映されておらず、全身が描かれているのは中央の隊長と副隊長と中央左奥の少女3人のみです。
レンブラントは強い日光が斜め上から差し込み影を作ることで、群像の中から3人の主要人物、すなわち中央の隊長と副隊長、そして中央左奥の少女を浮かび上がらせています。黄色いドレスの少女は隊のマスコット的な存在で、彼女の帯にぶら下がった鶏の爪は火縄銃手の象徴です。死んだ鶏は打ち倒された敵の象徴で黄色は勝利の色です。鶏の後ろの銃も火縄銃隊を象徴し、彼女は自警団の盃を持っています。彼女の前の人物はオークの葉のあしらわれた兜をかぶっていますがが、これは火縄銃手の伝統的なモチーだそうです。このようにレンブラントは火縄銃手組合の象徴物をさりげなく画面に配しています。
「夜警」に描かれた二重の輝く黄色いドレスの少女の姿は、生まれて間もなく死んだ二人の娘コルネリアのイメージでした。この集団肖像画は、病床にあった妻サスキアが、30歳の誕生日まで生き延びることを願った、30歳の誕生日のお祝いのパレードのイメージが秘かに重ねられていたことが近年分かってきました。
この作品を見て私のレンブラント感を一新させたのは、レンブラントの光の絶妙な効果です。レンブラントは光とそれ作る闇の効果を絶妙に生かした作品を描く画家という理解を持っていました。『夜警』でも明暗法を巧みに用いて群像にドラマチックな躍動感を与えています。しかし、『夜警』は、レンブラントの本領は、「光と闇」の画家ではなく、「光」そのものの絶妙な使い方にあるこということをはっきりと感じさせてくれました。 光を絶妙に使い色彩をも輝かせて、集団肖像画という地味な題材を輝かしい作品に仕上げているのです。日本で開かれるレンブラントはたいてい「光と闇」の副題をつけています、しかし「闇」の部分に気を取られ過ぎると、レンブラントの本当の魅力を見失ってしまうのではないか思いました。『夜警』をじっくり見ていて、レンブラントは「光の画家」なのだと確信しました。
Thepainting may be more properly titled by its long since forgotten name TheCompany of captain Frans Banning Cocq and lieutenant Willem van Ruytenburchpreparing to march out. In the 18th century the painting became known as theNight Watch. It is prominently displayed in the Rijksmuseum, Amsterdam, theNetherlands, as the best known painting in its collection. The Night Watch isone of the most famous paintings in the world.
レンブラントは、作品の中に、亡くなった妻や、愛人、子供たちといった愛しき者たちへの思いを秘かに込めていました。この『夜警』でも、二重の輝く少女の姿は、生後間もなく亡くなった次女コルネリアのイメージを描き込んだと考えられています。『夜警』は「火縄銃民兵隊」の集団肖像画の体裁を取りながら、実は、病床にあった妻サスキアが、30歳の誕生日まで生き延びることを願った、30歳の誕生日のお祝いのパレードのイメージが秘かに重ねられているという説もあります。しかし、『夜警』完成の年に29歳で妻サスキアは結核で亡くなりました。レンブラントは、翌年から仕事のペースを落ち、さらに絵画売買のトラブル、贅沢のための借金、召使との恋愛問題などから疲弊し、画家の仕事もうまくゆかなくなっていきました。
レンブラント『イサクとリベカ (ユダヤ人の花嫁)』1665年
レンブラントが最晩年に描いた作品です。深い暗がりから男性の金色の袖が浮かび上がり、メタリックな輝きを放っています。この作品もレンブラントが「光の画家」であることを感じさせる傑作です。「絵画の貴金属」と呼ぶ人がいたほど圧倒的な光と色彩の織り成す表現に、この作品を見たゴッホは震えるほど衝撃を受けたと言われています。

描かれている男女は旧約聖書に登場するアブラハムの息子イサクと妻リベカだと言われています。リベカに寄り添い、肩を抱き寄せ優しく見つめるイサク。リベカの頬は赤く染まり、激しく脈打つ心臓の鼓動が伝わってくるようです。信頼、恭順、慈しみと優しさという2人の感情が強烈な色と美しいタッチで表現されています。
TheJewish Bride: The painting is in the permanent collection of the RijksmuseumAmsterdam. The painting gained its current name in the early19th century, when an Amsterdam art collector identified the subject as that ofa Jewish father bestowing a necklace upon his daughter on her weddingday.Considered are several couples from the Old Testament, including Abrahamand Sarah, or Boaz and Ruth. The likeliest identification, however, is that ofIsaac and Rebekah, as described in Genesis While technical evidence suggests that Rembrandt initially envisioned a largerand more elaborate composition, the placement of his signature at lower leftindicates that its current dimensions are not significantly different fromthose at the time of its completion. According to Rembrandt biographerChristopher White, the completed composition is "one of the greatestexpressions of the tender fusion of spiritual and physical love in the historyof painting.
レンブラント『悲嘆にくれる預言者エレミヤ』1630年
エレミヤはユダの王ゼデキヤに主の言葉として、バビロンの王に降伏するように伝え、降伏しなければ、エルサレムは焼かれると預言しました。南ユダの人々を愛していたゼデキヤ王はエレミヤの言葉に従わず預言の通りバビロンによって焼かれました。この事件はエレミヤにとっても悲しいことでした。この作品にもレンブラントの絶妙な光と影のコントラスト、特に光が闇に溶け込む技法がエレミヤを浮かび上がらせの複雑な心境を感じさせます。レンブラントが使う光はいつも柔らかくて優しい。太陽やランプの光ではなく心の光であることを感じさせます。
レンブラント『アムステルダムの織物商組合の見本調査官たち』 1661年
レンブラントが晩年に描いたアムステルダム市長によって選出された織物商組合の見本調査官たち集団肖像画の傑作です。織物商組合のホールで飾られるために描かれたため、観る者が見上げて鑑賞する前提として、視点で遠近法を調整し描かれています。やや保守的な構図や自然的な光の表現を用い、テーブルクロスなどに示される赤暖色を描き、場面の厳格な雰囲気を緩和させる効果が感じられます。

アムステルダム国立美術館では、『自画像』『聖パウロに扮した自画像』など過去に日本に来日したレンブラントのいくつかの作品にも再開しましたが、『夜警』や『イサクとリベカ (ユダヤ人の花嫁)』を見た後に見ると、全く違った魅力があることに気が付きました。アムステルダムまでレンブラントの『夜警』を見にきて本当に良かったと思いました。
レンブラントとカラヴァジョの違いはどこにあるのかという疑問も『夜警』を見て解消されました。カラヴァジョは室内に差し込んでくる強い光を使って「光と影」の陰影のある画面を演出し、ルネサンス絵画にはなかった画期的な躍動感とドラマティクな画面を作り上げました。多くの画家が彼に追随しましたが、カラヴァジョを超えることはできませんでした。
レンブラントは光を絶妙に使い色彩をも輝かせ、光が闇に溶け込む技法により描かれている心の闇まで輝かせ心境まで表現しました。レンブラントの光は太陽やランプの光とは一味違った柔らかくて優しい心の光を感じさせる光で、これがレンブラントの絵画が多くの人を魅了する力の源泉だと思います。
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長い間ご無沙汰していました。5ヶ月弱BLOGアクセスを封じていました。コメントをいただきながらご返事できず申し訳ありませんでした。
今日再開することにしました。今後ともよろしくお願いします。
オランダ国立美術館(Rijks Museum)は好きな美術館の一つで何回か訪問しました。オランダ黄金時代の象徴の一つで、ここも大きいのが欠点で回るのに時間と体力がいります。フェルメールの作品も何点かありました。
数年前訪問した時は改装中でした。今は終わってきれいになっているのでしょうか。また、ゴッホ美術館(改装されましたね)やハイネケンが近くで楽しめました。
レンブラント工房の絵はこれぞヨーロッパ絵画という感じで感動しますね。私の記憶ではRijksmuseumでは年取ったレンブラントの自画像があって、味がある作品でした。
美術鑑賞で盛り上がりましょう。

私はレンブラントが描いていた時代の照明事情はこうだったんだろうなぁ・・・と
闇が背後に潜んでいる構図がすっと心に収まりました。
光があたる部分の柔らかさ、みずみずしさ、デッサンの確かなところは
画集で見ているときから好ましいところでしたが
やはり実際の作品を見ることができたのは嬉しかったです。

ケッタで遊ぼ!のツレです。
レンブランド「夜警」の解説とても詳しく、絵画が分からない私でもよく理解できました。
今更ですが、私は絵から入るというよりそれを描いた作家自身の背景とか、人となりから入るのがとても興味を持って鑑賞できるということがわかりました。美術館訪れる前にもっと下調べしておくんだったと今更ながらに悔やまれます…トホ
こういう見方は邪道でしょうか^^:
”夜警”とレンブラントに関する詳しい解説と
ご感想、とても勉強になりました^^
私が行った時も改装中で
周りの壁は白い布で覆われていました。
この絵の前に立った時の感動は忘れもしません。
集団肖像画でありながら、観る側に迫ってくる
圧倒的な存在感、手に取れそうな槍の先の輝き。
うまく表現できませんが、光の効果でしょうか、
まるで3Dのような立体的な絵に思えました。
織物商組合・・で思い出しましたが、
同じ旅でマウリッツハイスで
”テイプル博士の解剖学講義”にも再会しました。
ただ好きというだけで観ているので
勝手な感想ですみません。
西洋美術館のカラヴァッジョはもう行かれましたか?
そのあとのクラーナハも気になっています(^-^)
レンブラントの光の表現は非常に微妙で絶妙なので、本物を観ないと分らない部分が多いですね。レンブラントの『夜警』も子供のころから教科書や画集で見ていましたが、本物を見て感じ方が一変しました。
コメントありがとうございました。
dezireさんの「カラヴァッジョとレンブラントの違い」は、納得します。カラヴァッジョの「光と陰」は、闇の深度が深く人物をより浮き出させます。また、コントラストが強く、躍動感とドラマティクな画面づくりは、一瞬にして目撃者にしてしまう迫力があります。
レンブラントは、確かに光を絶妙に使い色彩をも輝かせます。そこに、カラヴァッジョと違った意図を感じます。闇の深度はやや浅く、穏やかで優しさも感じる画面づくりは、無意識に作品と沈黙の対話を楽しむ、鑑賞者にしてしまう魅力があります。
私にとって、dezireさんのコメントはとても刺激的でした。
レンブラントは詳しくないのですが、カラヴァッジョとレンブラントには同テーマで《エマオの晩餐》があります。その二つを比べてみたいと考えています。
ご意見全く同感です。光と影のコントラストにより強い陰影が写し出す迫真のリアリティーで人間の内面的、精神的物まで表現してしまうところが、レンブラントの魅力でね。
レンブラントの『夜警』、興味深く読ませていただきました。
dezire_sanさんのこのブログを読んで実物を見たいと心から思いました。
先日のテレビ「美の巨人」で、この絵が小さくサイズに切られたと知り、驚きました。
感動した美術ゃ音楽などを記憶にとどめておくため、レポートしています。
「美の巨人」も時々みます。これを機会によろしくお願いいたします。


現在、卒業論文作成にあたって≪夜警≫の考察を行っている者です。画面に登場している三人の子供(光をまとう少女と、その後ろの青いドレスを着た少女、また左下の駆け出している少年の三名)が、レンブラントの家族を表象しているのではないか、という考察です。
二重の輝く少女の姿は、亡くなった娘コルネリアのイメージを描き込んだ、という点、
また、お祝いのパレードのイメージが秘かに重ねられているという説がある、という点。
この二点について、詳しく知りたいなと思ったのですが、
これらの情報は、どこかの文献によるものでしょうか?
考察にあたって、なかなか先行研究を見つけることができていませんので、参考にさせていただければと思い、コメントさせていただきました。
アムステルダム国立美術館は、同館が所蔵するレンブラント・ファン・レインの名作《夜警(正式名称:フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊)》(1642)について、その欠損部分をAIによって復元したと発表しました。
《夜警》はレンブラントの代表作であり、オランダ黄金時代を代表する絵画のひとつ。完成当初は火縄銃手組合の集会所に掲げられていたものの、1715年にアムステルダム市庁舎に移設。その際、壁に収まらないため作品の四方が切り取られた。もっとも大きな欠損部分は左側で、これらの失われた部分は現時点でも発見されていません。
「《夜警》の研究においては科学と現代の技術が重要な役割を果たしている」としつつ、「人工知能のおかげで、原画とその印象をここまで忠実に再現することができた」と振り返る。
また同館館長のタコ・ディビッツは「《夜警》は、私たちの記憶に刻まれてる。今回の復元により、レンブラントが描いたときの構図がよりダイナミックなものであったことがわかった。レンブラントが意図した通りの《夜警》をこの目で見ることができるのは素晴らしい」とコメントを残しています。
なおこの復元された《夜警》は今後数ヶ月間、アムステルダム国立美術館で一般公開されるそうです。

ぜひ観に行きたいですね。
少女や場面のパレード説については言及されていませんが、どこかの文献を読まれたわけではないということでしょうか?
私個人ではなかなか見つけられないので質問させていただきました。
何かわかれば教えていただけると幸いです。

大昔の一部の宗教画は重厚感を持たせる又は顔等の輪郭が分からない様に等様々に云われており、意図的に黒背景にしたと聴いておりますが、昔々の絵画はどうしてこの様に暗い絵が多いのかと疑問を持っており、夜警の題名はそもそもなのか結果的になのか大きな疑問。 フェルメール等も光と影(闇)云チャラで、同じくオランダの大先輩の影響を受けているのかと思います。 機会がありましたらタッチや一人一人の表情を拝見したく思います。