日本初公開・ベッリーニとティツィアーノの大作・ヴェネツィア・ルネサンスの魅力
ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち
Greatmasters of the Venetian Renaissance

東京六本木の国立新美術館で、日本初公開のジョヴァンニ・ベッリーニの作品とティツィアーノの大作『受胎告知』を初めとしたヴェネツィア・ルネサンスの傑作が公開されました。
Inthe National Museum in Roppongi, Tokyo, Japan's first Venice Renaissancemasterpiece the public of Giovanni Bellini of works and Titian masterpiece the"Annunciation" was the beginning and has been published.
第1章 ルネサンスの黎明―15世紀の画家たち
ヴェネツィアのルネサンス美術は、フィレンツェよりも少し遅れて1440年頃にベッリーニ一族とヴィヴァリーニ一族の工房が中心となって始まりました。フィレンツェの先進的な美術の刺激を受けて、現実的な空間と人間的感情の表現を身につけた画家たちは、表現力に加えヴェネツィア独自の豊かな色彩による装飾的趣味と融合させていきました。
ジョヴァンニ・ベッリーニは、ベッリーニ一画家一族に生まれました。日本ではあまり知られていませんが、15世紀ヴェネツィア派最大の巨匠で、パドヴァ派の大画家マンテーニャは弟義兄にあたります。マンテーニャは、フィレンツェ・ルネサンスとは一線を画した異色の作風で、遠近法を駆使した厳格な画面構成、硬質な線描、彫刻的な人体把などで名声を博しました。ジョヴァンニ・ベッリーニは、マンテーニャの硬質で理知的な作風から影響を受けつつ、当時新しい技法であった油彩を用い、柔和な表現と華麗な色彩を特色とする作品を数多く描き、ヴェネツィア派の作風の基礎を構築しました。
ジョヴァンニ・ベッリーニ『聖母子(赤い智天使の聖母)』 油彩/板

聖母マリア汚れを知らぬ少女の面影を残していますが、周防の表現は人間的で、幼子イエスもあくまで人間の子供のように表現しています。雲の上を戯れる赤い天使と聖母の赤い服が共鳴し、不思議な色彩世界を作り上げています。暗雲漂う空の青が聖母のマントの青と共鳴しています。背景の風景は、フランドル絵画のように精密に描かれ、ており、安定した造形表現と、共鳴する赤と青の色彩が上品な華やかさを感じさせます。ベリーニの画家としての画面統率力の見事さに魅力を感ずる作品です。この1枚だけを見ても、ベリーニの傑出した画家の才能を感じます。
Ofthe other, the religious class of his work, including both altar-pieces withmany figures and simple Madonnas, a considerable number have fortunately beenpreserved. They show him gradually throwing off the last restraints of theQuattrocento manner; gradually acquiring a complete mastery of the new oilmedium introduced in Venice by Antonello da Messina about 1473, and masteringwith its help all, or nearly all, the secrets of the perfect fusion of colorsand atmospheric gradation of tones. The old intensity of pathetic and devoutfeeling gradually fades away and gives place to a noble, if more worldly,serenity and charm. The enthroned Virgin and Child (such as the one at left)become tranquil and commanding in their sweetness; the personages of theattendant saints gain in power, presence and individuality; enchanting groupsof singing and viol-playing angels symbolize and complete the harmony of thescene. The full splendour of Venetian color invests alike the figures, theirarchitectural framework, the landscape and the sky.
ジョヴァンニ・ベッリーニは、祭壇画や肖像画の傑作を多く残していますが、ベッリーニの描く聖母子像は、レオナルド・ダ・ヴィンチのスフマートを習得しているのではないかと思われるほど円熟した筆遣いで、聖母子のビラミット的な姿勢が、暖かい奥行きに飲み込まれることなく動いている詩情豊かな表現が特色です。
15世紀のヴェネツィアには、深味のある彩色を可能にする油彩の技法をもたしたシチリア出身のアントネッロ・ダ・メッシーナや、宗教的主題のなかに当時のヴェネツィアの風俗を描き出したヴィットーレ・カルパッチョの作品も展示されていました。
ヴィットーレ・カルパッチョ『聖母マリアのエリサベト訪問』 油彩

世俗的な描法で神聖な物語を彩る手法は、カルパッチョ独自の表現といえます。
第2章 黄金時代の幕開け ティツィアーノとその周辺
この美術展の展示では、ジョヴァンニ・ベッリーニ以降、美術展の目玉ともいえるティツィアーノの『受胎告知』までの作品が展示されてはいましたが、ヴェネツィア派絵画が進化を示すようなジョルジョーネやティツィアーノの作品を揃えること自体無理なこともあり、ヴェネツィア派絵画が進化していった過程は分りにくかったと思います。そこで、この美術展の展示を離れてヴェネツィア・ルネサンスの変遷を説明しておきたいと思います。
16世紀の初頭ヴェネツィア派絵画に革命がもたらしたのは、ジョルジョーネとティツィアーノの二人の若い天才画家でした。
ジョルジョーネは、ジョヴァンニ・ベッリーニの豊かな色彩表現を受け継ぎながら、ベッリーニを凌駕する柔軟で卓抜した描写力で。人間と自然に生き生きとした脈動を与えました。この詩的写実性に加え、ヴェネツィア派の伝統的色彩の官能性と抒情的喚起力を生かしながら、レオナルド・ダ・ヴィンチのスフマートのような輪郭の開かれたデッサンと深い明暗感覚を統合し、空間全体を詩的雰囲気で統一しました。
ティツィアーノは、ジョルジョーネが構築したアカデミア的伝統も引継いた、ヴェネツィア独自の絵画様式に。古典的な構造と肉付けを強化した傑作を生みだしました。1510年代の『聖なる愛と俗なる愛』『聖母被昇天』はこの時代の頂点に逸する傑作と言えます。
しかしティツィアーノは、ミケランジェロの『最後の審判』の影響を受け、仰視性、群像の動的表現、動勢表現を習得ました。『ウルビーノのヴィーナス』などに極められた自然主義的リアリズムからの飛躍を模索し、色彩、形態が古典的調和からバランスを崩していきます。
ここに至って、フィレンツェに発するルネサンスとでは、ギリシア、ローマの思想を受けついで形を正確に捉え、線によって区切られた人物が人間中心主義の絵画表現の根幹ととらえ、絵画画面の秩序と厳密な遠近法を志向したのに対して、線を厳密にひかず微妙なタッチによってぼかされ画面全体が小さなカオスの集合に向かっていきます。人物は画面全体を作り出すための空間要素となっていきます。
またステンドクラス絵画のように、色彩と色彩が互いに協調し競合し光によって生命が与えられ、独自の世界を作り出すことを志向し、色彩の光による揺らぎがダイナミズムを演出し、流動化したフォルムが見る人の感覚に躍動感と情感を生み出していきます。
イタリア・ルネサンスからの大胆な逸脱により新しい美術を模索していたマニエリスムの時代に、ヴェネツィア派の画家たちは、バロックやロマン主義につながる新しい絵画の創造に挑戦していたとみることができます。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『受胎告知』
油彩 ジョルジョ・フランケッティ美術館

16世紀・盛期ルネサンスのヴェネツィア画壇の第一人者として君臨したティツィアーノの晩年を代表する作品が、サン・サルヴァドール聖堂の右側廊の祭壇を飾る大作『受胎告知』です。ヴェネツィア・ルネサンスがフィレンツェに発するルネサンスを超えたことを顕著に示す作品とみることができます。
ティツィアーノは、「キリストの受肉」、すなわち、神の子キリストが人の子イエスとしてマリアに宿る「受胎告知」の瞬間を描いています。大天使ガブリエルがマリアのもとを訪れ、受胎を告げる場面は、ルネサンス絵画になじみの主題ですが、ヴェネツィアではさらに特別な意味がありました。伝承によれば、ヴェネツィアの建国は421年、受胎告知の祭日である3月25日にさかのぼるからです。
Thechurch of San Salvador has two paintings by Titian – one that I absolutely love. The painting on the high altar is theone I don’t love – some art historians think it was badly restored and maybethat’s true; it looks a bit flat to me and the colors look strange. But noworries, because the other Titian is a mind-blower – The Annunciation (thirdaltar on the right). Titian was over 70 years old when he painted this one.Mary is being approached by Archangel Gabriel, who looks particularly powerfuland androgynous, but all the action is in that impressionistic burst of energy,angels, and light above them.
ティツィアーノは、この決定的な奇跡の瞬間を、晩年特有の力強く大胆な筆さばきと、金褐色を基調とする眩惑的な色彩によって、ドラマティックに描出しました。天が開け、まばゆい光とともに、聖霊を表す鳩が降臨するなかで、大天使の出現に驚いたマリアは、身を引きつつも耳元のヴェールをたくしあげ、お告げに耳を傾けています。マリアの驚きの表現は躍動感を感じさせます。その足元にあるガラスの花瓶は、マリアの処女性を象徴しています。
ルネサンス以降、三位一体の考えでは、白い鳩は三位の一部である聖霊が変化したものだとされ、本作では受胎告知が神の意志であることを示す神の代理人として描かれたと考えられています。練られた構想、例えば場面を取り巻く建築物の秩序高い整然とした左側の縦溝彫り石柱の構造など、至る所で伝統様式に支配されず、独自の解釈と衰えない高い技術で示され、画家独特の表現が見られます。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 『聖母子(アルベルティーニの聖母』

荒いタッチと震えるような光の表現は、『受胎告知』と同様、晩年のティツィアーノの表現様式が感じられます。イエスの垂れた腕は、受難による死を暗示し、マリアの悲しそうな表情は十字架にかけられるイエスの悲劇的運命を予告させます。聖母マリアの髪やショールのタッチが美しく、聖母の生き生きとした動きが表現されていて心をとらえてやみません。
ヴェネツィア絵画の黄金時代の章では、ティツィアーノのいくつかの作品のほか、ジョルジョーネの影響を色濃く示すアンドレア・プレヴィターリの『キリストの降誕』やサヴォルドの『受胎告知』》、横たわる裸婦の系譜に属するパリス・ボルドーネの作品などが展示されていました。
ティツィアーノに続く世代ヴェネツィアで活躍したのは、ヤコポ・ティントレット、パオロ・ヴェロネーゼでした。但し、ティントレットやヴェロネーゼより、前に触れたサン・サルヴァドール聖堂のティツィアーノ『受胎告知』の方が前衛的であり、ティントレットやヴェロネーゼは、ヴェネツィア・ルネサンスという範疇でのティツィアーノの後継者と言えると思います。また、ヴェネツィアの内陸領土の町バッサーノ・デル・グラッパでは、ヤコポ・バッサーノがジョルジョーネの流れを汲む情緒豊かな田園風景に聖書の主題を描き出す独自の宗教画を制作し、ヴェネツィアや他の宮廷でも高く評価されていました。
Followingwas active in the generation Venice to Titian, Jacopo Tintoretto, was PaoloVeronese. Tintoretto and Veronese, I think it can be said that the successor ofVenice Renaissance.
ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)『聖母被昇天』
油彩/カンヴァス 240 × 136 cm

ティントレットは、背景を効果的に用い、情景に荘重な趣を与え、奥行きある空間に斜め強い光をあてて、劇的な効果を狙い、舞台の上で俳優が演じているような説得力を与えました。やや大げさで仰々しく、人々も聖母も芝居かがった感じがしますが、劇的でドラマティクな表現はティントレットの持ち味です。ティントレットの個性は、大規模な天井画や壁画で効果的にいきるため、16世紀半ばの画壇で劇的な明暗表現で宗教画の大作を次々と描いて華々しく活躍し、大画面の祭壇画や装飾画を精力的制作しました。
パオロ・ヴェロネーゼは、ヴェローナから移住してきて華麗な色彩と古典的な様式で貴族たちから高く評価されたでした。ティントレットともに世紀後半のヴェネツィア絵画をけん引する存在となりました。ヴェロネーゼは豪華な日宇卓と明るい色彩、堂々たる人物描写でジェネツィア派とパルミジャーノやジュリオ・ロマーノのラファエロ主義を融合させ多様な作品を残しました。ヴェロネーゼは空間を横に広げも全体に光を当たることで、オペラのフィナーレのようなきらびやかな演出を行いました。また、あくまで宗教画家であったティントレットに対して、ヴェロネーゼは現生の快楽を歌い上げる作品も描きました。
『レパントの海戦の寓意』パオロ・ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)
油彩/カンヴァス 169 × 137 cm

海戦の様子を筆先を馳駆して巧みに描き、上空はヴェネツィア、又は信仰を表します。女性は聖母にひざまづぃて勝利を祈ります。光と影を使った表現で激戦の暗と展所の明を鮮やかに描き分けています。非常に難しいモチーフの組み合わせが不思議なほど調和しているのは、ヴェロネーゼの技量の高さを示しています。
第4章 ヴェネツィアの肖像画
ヴェネツィア派の画家は、実在の人物の姿を生き生きと表現した肖像画を得意とする分野でした。内面性への深い洞察を含む様式が発展し後の西洋美術の肖像画の原点となりました。
ヤコポ・ティントレット『サン・マルコ財務官ヤコポ・ソランツォの肖像』
ティントレットは肖像画にも優れた手腕を発揮しました。この作品はティントレットが闊達な筆致で名門貴族の老人を描いた「サン・マルコ財務官」を務めたヤコポ・ソランツォの最晩年の肖像画で、サン・マルコ広場に面する財務官の庁舎に飾られていました。豪奢な質感が巧みに描出された財務官の緋色の衣服を纏い、射るような眼差しを放つソランツォは、堂々たる威厳にあふれ、精神の老練さをも感じさせます。
第4章 ルネサンスの終焉─巨匠たちの後継者
90年代の前半ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノの三人の巨匠が次々に他界し、ヴェネツィア絵画は、これら三巨匠のスタイルを受け継ぐ後継者たちの時代となりました。しかし、展示されている作品を見る限りティントレット、ヴェロネーゼなどを追随しているようにしか見えず、ヴェネツィア・ルネサンスは終焉を感じました。
しかし、これは私感ですが、ヴェネツィア・ルネサンスの美意識は、ルドヴィコ・カラッチ、アゴスティーノ・カラッチ、アンニーバレ・カラッチのカラッチ兄妹、ピエトロ・ダ・コルトーナ、ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロらのイタリアバロックとして華々しく開花していったのではないかと考えています。
参考文言
『ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち』の公式カタログ
ピーター ハンフリー, 高橋 朋子 (訳) 『ルネサンス・ヴェネツィア絵画』
マリオリーナ オリヴァーリ (著) 『ジョヴァンニ・ベッリーニ』1995
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確かに、ミケランジェロのデッサン力から見ると、ティツィアーノをはじめとしたヴェネツィア派の画家たちのデッサン力は、不十分だと映ったのかもしれませんね。ティツィアーノは晩年の『受胎告知』を見てもわかるように、絵画にミケランジェロとは別のものを求めていたのではないかと思います。
ティッツィアーノの逸話の数々や技法の話は大変興味深く読めました◎
また本筋から離れた話になりますが、一人のブロガーとしてdesire_sanさんの執筆のための取材姿勢には敬服しております。美術展をみるだけでなく書籍も読み込むとは脱帽です◎面白い記事をありがとうございました!
ご評価いただいて恐縮です。美術展でも、旅行でもそうですが、一生に一度しかないすばらしい芸術品などに出会う機会は、その機会を最大限に自分の記憶と理解の中にとどめようと、できるだけ予習するようにしています。自分のために行っていることですが、ブログをfasebook二もアップしていますので、色々新しい方との出会いもあります。これを機会に今後ともよろしくお願いいたします。

ティッティアーノの病主力はすばらしいものですが、これでもミケランジェロはティッティアーノの絵を見て、デッサン力が足りないのが惜しい、といったそうです。
線のフィレンツェ、色のヴェネツィアといわれますが、ヴェネツィア画家の豊かな色彩は、水の都の色彩から生まれてきたのでしょうね。カンバスが発達したのは船の帆をつくる技術からだと聞いたことがあります。
旅の記事と展覧会の記事を一緒に見られたおかげで、絵と風景の記憶が同時によみがえり、感慨深かったです。
ご指摘のように、ヴェネツィア・ルネサンス美術の本質は、ヴェネツィアに実際行ってみて初めて分かるような気がします。ヴェネツィア・ルネサンス美術の傑作は殆どヴェネツィアの中から出たことがないので、ヴェネツィアに行かないとみることができません。
ヴェネツィア他のイタリアのリ町より色彩豊かで、は晴れた日は光が美しく、よその国からヴェネツィアに来た画家も、ヴェネツィア訪問を機会に色彩感が豊かになった画家が巣が知れないほど多くいますね。
絵画を観るのは好きですが、知識はないので、これから参考にさせていただきます!
そして、バレエやオペラや旅もお好きなのですね。
私も旅やバレエ(古典よりもコンテンポラリー、モダンバレエの方が好みですが)が好きなので、ゆっくりと拝見させていただきます。
美術は全般的に好きで、日本に絶対来ないような大作は、海外まで見に行っています。美術を求めた旅の記録も書いていますので、ご興味がありましたら、覗いてください。
これを機会によろしくお願いいたします。
