人気ブログランキング |
ブログトップ

dezire_photo & art

desireart.exblog.jp

心に残った旅・芸術とアートとの出会い   

シエナの美術館とシエナの美術を支えた薄命の天才画家

ロレンツェッティ兄弟

PietroLorenzetti & Ambrogio Lorenzetti

a0113718_19162719.jpg


中世から時が止まったかのようなゴシックの街・シエーナ、この人口5万人程度の街に、10以上の美術館や博物館があります。





シエーナは、中世の北からローマへの主要な巡礼ルートフランシジェーナの通商巡礼ルートのおかげで、13世紀から14世紀にかけて、金融の重要な中心地としては急速に発展し、文化的な交差点と芸術の中心地となりました。街の貴族、その成長する商人の階級とそのギルド、そして宗教的な社会によって築かれた富もまた、壮大な宮殿、礼拝堂、ロギア、彫刻、噴水そしてプッブリコ宮殿と大聖堂に運ばれました。コンスタンチノープルから輸入されたビザンチン様式は、シエーナの本来の精神性と神秘的な聖母への愛着によく合っていて、何百もの象徴的で理想的でエレガントな聖母は、城壁と教会の祭壇を飾っています。


この時期シエーナは、ドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャ、Jシモーネ・マルティーニ、ロレンツェッティ兄弟などの芸術家を生み出し、フィレンツェとローマからドナテルロ、ギベルディ、ミケランジェロ、ベッリーニなどの最高の天才芸術家がこの街を訪れました。芸術家にはこの街の守護のために聖母像を描いて教会などに寄贈することもいました。シエーナでは、街の芸術の美しい作品が至るところで見られ、シエーナの芸術の歴史は街の美術館で見ることができます。


シエーナで生まれた芸術の多くはこの街を出たことがなく、大聖堂、シエーナで生まれた芸術の多くはこの街を出たことがなく、大聖堂、プッブリコ宮殿とこの街の美術館で大切に保護されています。シエーナ市立美術館(プッブリコ宮殿)、シエーナ国立美術館(Pinacoteca Nazionale)、ドゥオーモ付属美術館、現存するヨーロッパ最古の中世の病院建築・サンタ・マリア・デッラ・スカラ救済院(街の素晴らしい)病院と博物館)や多くの教会、小さな博物館シエーナで生まれた芸術の多くはこの街を出たことがなく、大聖堂、プッブリコ宮殿とこの街の美術館で大切に保護されていて、一日の旅行中に休息できる場所になっています。それらの中でも、シエーナで最も重要な美術館は、シエーナ市立美術館 (プッブリコ宮殿)、シエーナ国立美術館(Pinacoteca Nazionale)、ドゥオーモ付属美術館です。




シエーナ国立美術館

シエーナを訪れた人でも大抵見落としてしまうシエーナ国立絵画館は、坂の上にありました。館内は私以外にお客はいなくてとても静かでしたが、4階建ての館内には膨大なシエーナ派絵画がありました。たくさんの絵画からお目当てだった、アンブロージョ・ロレンツェッティの『受胎告知』(1344年)とピエトロ・ロレンツェッティの『カーマインの祭壇画』(13281329年)を見つけることができました。



アンブロージョ・ロレンツェッティ『受胎告知』1329年)



a0113718_17003281.jpg


 受胎告知にはさまざまな表象があるわけですが、この作品では大天使とともに小さな鳩が登場しています。鳩は11世紀以降、この主題に頻繁に顔を出すようになりました。大天使は神の言葉の伝達者、鳩は神秘の受胎の運搬者なのです。それは、『ヤコブ原福音書』の天使が「あなたは彼の言葉によって身ごもる」と告げたことでも明らかです。この作品でも、大天使の口から出た言葉がラテン語の金の荘厳文字で示されています。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」。マリアは答えます。「お言葉どおり、この身になりますように」。


揺るぎない量感を持った二人の人物を力強く際立たせるために、持ち味である写実的な細部描写に加えて、遠近法を用い床の表現に情熱を注いで、存在感あふれるマリアと大天使ガブリエルを美しく象徴的に描き出しています。マリアが膝に赤い革表紙の中型の旧約聖書を置いて、マリアが神の母としてふさわしい知的な女性として描かれています。彼女と棕櫚の葉を携えた大天使の間は接近しており、二人の間を隔てるものは何もなく親密さを感じさせます。天使とマリアが同等の立場で描かれているわけです。聖なる世界をそれまでの平板な表現ではなく、現実の人間世界に生きるドラマとして描こうとした、ルネサンスの息吹を感じさせる受胎告知となっています。


 アンブロージオの特徴は、何といっても遠近法に対する深い理解だったでしょう。そのため、構図や図像はきわめて独創的で、14世紀シエーナの代表的画家としての揺るぎない位置を保っています。アンブロージオの魅力はその優れた技巧だけにとどまるものではなく、神聖で難解な主題に具体的で明快な人物の姿を与えることで、また、現実のものを夢物語に変えて楽しく晴れ晴れとした雰囲気に変化させてしまうような才能を持っていました。アンブロージオの鋭敏な感受性は、非常に洗練されたもので、彼の並外れた才能を実感します

 



ピエトロ・ロレンツェッティ『カルミネの祭壇画』1329年)



a0113718_17014466.jpg



『カルミネの祭壇画』で、ピエトロ・ロレンツェッティは新機軸を導入しました。この作品の中央パネルでは、全身像の諸人物が「玉座の聖母子」を取り囲んでいます。他方でプレデッラは、カルメル修道会の創立を語っています。ある意味ではこの作品において、多翼祭壇画はすでに頂点に達しているといえます。このより成熟した作品で彼は彼の弟アンブロージョ・ロレンツェッティの影響を受けています、そこでフィレンツェのジョット的表現は、光と影のコントラストや光の効果を強調する自然主義的な画法の研究で薄められています。




シエーナの非常に才能のある画家、ピエトロ・ロレンツェッティ(兄)(1280-1348頃)とアンブロージョ・ロレンツェッティ(弟)(1290-1348頃)の人生についてほとんど知られていません。ピエトロ・ロレンツェッティは、ドゥッチョの弟子であったと推測されています。活動はアレッツォ、アッシジ、フィレンツェまでの範囲におよび、アッシジで制作された作品の優れた空間表現からジョットの影響も受けていたと研究されており、色彩や人物の動きに劇的な表現を用いています。もう一人の画家、ピエトロの弟、アンブロージョ・ロレンツェッティは、画業の功績的には、兄よりも名を残しています。シエーナを中心にフィレンツェにも活躍場所を広げ、その画風はシエーナ的な要素とフィレンツェ的な要素を結び付け、遠近法に対して極めて独創的な表現をおこない、数多くの制作を手がけました。晩年のアンブロージオ・ロレンツェッティの作品における完成度の高さには目を見張るものがあります。しかし、晩年とはいっても、彼がこの時わずか25歳の青年でした。アンブロージオはこの4年後、兄のピエトロとともにペストに冒され、29歳の若さで亡くなりました。彼らが生き永らえて老成したならば、私たちをどんなに圧倒する作品を生み出したかと思うと痛恨の思いです。




ドゥオーモ付属美術館

 シエーナ大聖堂に隣接して、「ドゥオーモ付属美術館」があります。未完成に終った大聖堂の増築部分を利用して 1870年に設立されました。1階には大聖堂のファサードを飾っていたドゥッチョの下絵によるステンドグラスやジョヴァンニ・ピサーノの大理石彫刻群が展示されています。大聖堂付属美術館の見晴台からシエーナの街が一望できます。ここからシエーナ大聖堂やカンポ広場とマンジャの塔も美しく見えます。ここの白眉は、「シエーナ・聖母マリアの街」で紹介としたシエーナの至宝、ドゥッチョ『マエスタ(荘厳の聖母)』で、2階の特別室に展示されています。絵画作品では、祭壇画の傑作、ピエトロ・ロレンゼッティの『聖母の誕生』も見ることができました。




ピエトロ・ロレンゼッティ『聖母の誕生』1342年)



a0113718_17051427.jpg



ピエトロ・ロレンツェッティの『聖母の誕生』は、シエーナ大聖堂内サン・サヴィーノ礼拝堂のために描かれた祭壇画として描かれた作品で、元々両翼に聖サウィヌス、聖バルトロマイが描かれた板絵が配される五連祭壇画でありましたが、現在は両翼を消失し三連祭壇画として公開されています。この作品は、図像上でも造形上でも、祭壇画として画期的なものでした。この作品を語るとき普通強調されるのは、伝統的手法によりながら、空間の奥行きを見事に表現しているピエトロの力量で優れた。マリア誕生という聖なる場面を、絵を観る人のいる空間から切り離すために、ピエトロは前景に4本の片蓋柱を置き、その背後に物語空間を大胆に展開しています。マリア誕生と同時進行するもう1つのエピソードは隣り合った別々の区画に描かれていますが、空間に奥行きを生む床が連続していることによって、全体が統一されています。しかし、床の諸線が想像裡に向かう「消失点」は、比較的高い位置に設定されることによって、絵の平面性を回復しています。色彩もまた、奥行と平面のバランスを取っています。床の斜行する線によって画面の奥へと引き込まれそうになる視線は、一様に置かれた色彩で平面につなぎとめられます。すると絵を観る人の眼は、黄と紫という稀な配色の衣装をまとうアンナの上に引きつけられます。彼女の姿は、背後に描かれた白い壁掛けからまるで浮き出すかのようです。富裕なシエーナの人の豪奢な窒内をバックに、聖アンナは祭壇上であたかもイコンのように輝いています。聖なる像と信心のための像




アンブロージョ・ロレンツェッティ作

               『キリストの神殿奉献』

            (1342年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館)



a0113718_17071653.jpg


 神殿内で展開される物語に説得力のある表現を与えるために、アンブロージョは前景に円柱を描き、奉献の場を奥に引き、後景には数区画にわたって続く内陣を熟練の筆で描きだしています。薄暗い内陣は奥行き感を高め、床の線も同様の効果を醸し出しています。アンブロージョは、床の線の延長を祭壇で遮ることで、奥行きが高まりすぎることを救っています。ほかの手法は、さらにいっそう平面性を大事にしています。まず前景の列柱は、遠近効果を生むには細すぎます。この列柱は、建物を厳密に絵画平面内に維持し、画面内の聖なる世界と世俗空間とを区切る境界となっています。他方、消失点に向かって上昇し、かつ下降する諸線は、長方形の画面を垂直に二等分する線のほぼ中央で、シンメトリカルに交差しています。この斬新な空間構成もまた、絵画平面に走る主要な線の網目の内部にあります。激しくふるえる多彩さは、見る者の目を画中に引き回し、最後に同一面に描かれた人物像へと連れもどします。アンブロージョのこの作品において、空間の遠近構成と平面性は対立し矛盾しているといってもよいですが、それでも、ピエトロの作品にくらべれば、そのさまはずっと穏やかです。




アンブロージョ・ロレンツェッティ『荘厳の聖母(マエスタ)』

                      (1342)


a0113718_17085121.jpg



1867年マッサ・マリッティマ市のサンタゴスティーノ修道院で発見された作品です。アンブロージョ・ロレンツェッティが同市のために制作したとされる祭壇画『荘厳の聖母(マエスタ)』です。画家は生涯に荘厳の聖母を数点描いていますが、マッサ・マリッティマ市立美術館に所蔵される本作と、シエーナ市のサンタゴスティーノ聖堂に置かれるものが特に優れた作とされています。


アンブロージョ・ロレンツェッティのスタイルは、フィレンツェの最も優れたリアリズムへの関心と、シエネーゼの美しさを調和させた非常に繊細で美しい装飾です。これまでで最も有名で重要な作品は、シエーナのプッブリコ宮殿(市庁舎)でのフレスコ画『善と悪の政府の寓意』です。彼は1348で街を荒廃黒ペストの大流行で死亡したと言われています。




シエーナ市立美術館

シモーネ・マルティーニの『マエスタ(荘厳の聖母)』があるシエーナ市庁舎・プッブリコ宮殿2階の市立美術館には、シエーナの歴史を物語る多くの部屋があり、各部屋に壮観なフレスコ画は展示されていていました。




アンブロージョ・ロレンツェッティ

          『善政の効果と悪政の効果の寓意』




a0113718_17110302.jpg


「平和の間」にはアンブロージョ・ロレンツェッティの「善政の効果と悪政の効果の寓意」ありました。このフレスコ壁画は、初期ルネサンスの世俗的絵画の傑作の一つである。「九頭」とは共和国を統治するギルドや豪商たちの寡頭政治会議のことです。ここに描かれているのは、まず「善政の寓意」という寓意的有徳者の大会議を描いたものです。他の向かい合った2つの壁には、「都市と田園における善政の効果」と「悪政の寓意、および都市と田園におけるその効果」がそれぞれ描かれています。政府のあらゆる側面(正義、シエーナのコミューン、市民、法執行機関など)および彼らの感動的な美徳(神の知恵、寛大さ、平和、枢機卿の美徳、神学的美徳など)人物によって表されています。右側の壁には、生産的な仕事を寓意的に表現した、市および田舎の優れた政府効果のアレゴリーがあります。シエーナ市内とその田園地帯にあります。最後に、左側の壁には' 悪い政府のアレゴリーの側面の擬人で、失政や悪徳とその都市と田舎の影響、教義の観点からは、セントトマスアクィナスの思想への明確な言及があります。権威、原則、事実、原因と結果の反映だけでなく、根本的な政治秩序など、事実上アリストテレスの人間社会の「自然さ」の概念を主張しています。「都市と田園における善政の効果」には、平和な中世郊外と田園地方での生活が無数に表され、保存状態の大変良く。700年近い昔の人々の暮らし振りを目の当たり描いていて、時を経て、変わったものと変わらぬものとの違いの少なさを感じさせてくれました。



「枢機卿の間」には、天井一杯に描かれたこの絵は3列に5点ずつ、円形、長方形、八角形、 合計15点の絵とそれらを埋める幾つかの小図から成るドメニコ・ベッカフーミの天井画がありました。この部屋はシエーナ政庁の会議室に使われ、そのためか15点の主題は 古代ギリシャ、ローマの歴史からの逸話になっています。




文字をクリックすすると、リンクして解説を観ることができす。




参考文献

キアーラ フルゴーニ (),谷古宇 尚 ()『ロレンツェッティ兄弟』1994

〈イタリア・ルネサンスの巨匠たち―6〉、東京書籍

片山伸也『中世後期シエナにおける都市美の表象』中央公論美術出版、2013

林 直美, 篠 利幸

『シエナ―イタリア中世の都市 (京都書院アーツコレクション) 1999

石鍋 真澄『聖母の都市シエナ―中世イタリアの都市国家と美術』1988







この記事を読んだ方は上のマークをクリックして下さい。

にほんブログ村 美術ブログへ
にほんブログ村










by desire_san | 2019-03-22 17:12 | イタリア・ルネサンス美術の旅 | Trackback | Comments(6)
トラックバックURL : https://desireart.exblog.jp/tb/239151854
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by Keiko Kinoshita at 2019-03-24 16:07 x
シエナ国立美術館2階で印象に残ったのは、ベッカフーミによる『聖母マリアの誕生』でした。シエナ派の代表的な画家ベッカフーミの作品は、”光と影”のバロック様式の様な画面は、本当に美しく絵の前で立ち尽くしました。画面左後方に光源があり、そこから差し込む光が聖アンナが半身を起している寝室を照らしています。最も強い光が当たっているのは乳母のピンク色のドレスの横に生まれたばかりの聖母マリアを抱く乳母が、赤子の世話をしています。ベッカフーミの作品は観る者に不安な気持ちを与える様な色使いや描写をしますが、更に加えてこの作品は、謎解きを与えられている様な気持ちさえ
してくる、魅力的な絵画でした。
Commented by doitsuwine at 2019-03-25 22:09
シエナ、3年前に訪れました。
そんなにたくさんの美術館、博物館があるんですね。
私はあまり人のいない美術館で静かにゆっくり観賞するのが好きです。
パリの美術館でもモンマルトル博物館(名前は博物館ですが内容は美術館)が一番好きなのです。
シエナはトスカーナのワイナリー巡りのついでに寄りました。
修行が足りませんね。
Commented by desire_san at 2019-03-27 14:39
doitsuwineさん いつも私のブログを見ていただいてありがとうございます。
モンマルトル博物館は、モンマルトルのぶどう畑に張り出すようにして建つ博物館の建物が素敵ですね。

シエナ派の絵画の大部分がシエナにあるため、それを保管するため多くの美術館があるようです。ご紹介した3つの美術館をみると、シエナ派の絵画の全体像が分かりますね。

トスカーナのワインはおいしいそうですが、私は美術ばかり追いかけていて、トスカーナのワインを知らずにかえってしまいました。私も修行が足りませんね。

Commented by rollingwest at 2019-03-28 06:32
貴殿が洋楽好きだとは知りませんでした!今年はビートルズアビーロード50周年記事を公開、来年はストーンズ70年代名盤50周年のスタートなので時たま洋楽コーナーにも是非遊びに来てください!
 
Commented by snowdrop-nara at 2019-03-28 17:58
こんにちは。
シエナの町や美術の美しさの秘密を
ていねいに解き明かしてくださってありがとうございます。
いつかイタリアを再訪できたら
今度はフィレンツェではなくシエナに滞在したいです。
その時はdesireさんのブログを持参して…
(きっと現地でもスマホで見られるのでしょうね!)

今夜、NHKでビートルズの映画があるようですね。
むかし見たことがありますが、デジタルリマスター版らしいので、録画してみようと思います。
Commented by desire_san at 2019-03-28 19:13
snowdrop-naraさん いつも私のブログをみてくださりありがとうございます。

観光客が全くいない夜や早朝のシエナにいると本当に中世にタイムスリップしたような感覚を体験できます。
私はイタリアに4回行き、フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィア、シエナに泊まりましたが、一番止まってよかったのは、やはりヴェネツィアでした。雰囲気的にはシエナもお勧めですが、やはり町の規模と見どころの多いヴェネツィアに泊まった方が効率が良かったです。

これから、フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィア各々の見どころ一つひとつについて観光レポートを書こうと思っています。ライフワークになりそうですね。