学校の教科書では学べない幕末の歴史の真実
幕末を学ぶ歴史小説
歴史小説として多くの人に読まれているのは司馬遼󠄁太郎で、『竜馬がゆく』『燃えよ剣』『国盗り物語』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』
などで多くが映像化され、国民的作家として、司馬遼󠄁太郎の小説の歴史観は日本社会に広く影響を与えています。司馬遼󠄁太郎の小説の
ヒーローは英雄化されて語られることが多いように感じますが、例えば幕末の歴史は、ほんとうに司馬遼󠄁太郎の英雄たちですべてを
語ってよいのでしょうか。ここでは、幕末を別の視点で描いた歴史小説の秀作をご紹介します。
山本 兼『命もいらず名もいらず』(集英社文庫)
勝海舟と並んで幕末の三舟に数えられた最後のサムライ、山岡鉄舟は、幼少期は飛騨高山で暮らし、幼きころより剣、禅、書の修行に
励み、おのれを鍛えました。江戸城無血開城の為に最初に動いたのが山岡鉄舟で、捕まれば死ぬかもしれない官軍の陣を突破し、西郷隆盛と勝海舟の会談を取り付けた立役者でした。一般にあまり知られていない、山岡鉄舟の生き方と魅力は、歴史観に大きな影響を感じました。
藤沢周平『回天の門』(文春文庫)
羽州田川郡清川村、素封家斎藤家の長男、斎藤元司、のちの清川八郎は、「
新撰組」の陰に隠れて、悪評と誤解から、その生涯はあまり知られていません。清川八郎は、維新回天、早すぎた倒幕志士でした。一人の田舎者が郷里を出奔してから麻布一ノ橋で倒れるまでの孤高の生涯を描いたこの作品は、歴史の視点に一石を投じています。
有吉佐和子『和宮様御留』(講談社文庫)
幕末、公明天皇の妹でありながらも、時代背景の綾の中で将軍家茂の妻となった「悲劇の皇女」和宮内親王の波乱の生涯を描くこの作品です。この作品のテーマが「女性の立場から見た歴史の見直し」であることは作者も認め、一方作者は自らあとがきで、和宮降嫁を太平洋戦争と重ね合わせ、この作品を「赤紙一枚で招集され、何も知らされないまま軍隊にたたき込まれ、適性をもたぬままに狂死した若者たちへの鎮魂歌」だとも書いています。歴史を昔の話と捉えず、現代の日本と重ね合わせて考えることが、歴史から学ぶことに繋がると思いました。
舟橋聖一『花の生涯』(新潮文庫)
安政の大獄、桜田門外の変で悪役・敵役のイメージが強い幕末の大老、井伊直弼の生涯を綴った作品。彦根藩主の十四男に生まれた直弼は、長い不遇時代から藩主になり、幕政の中央へと運命によって押し出されます。日本内外から揺さぶられる幕府の要人として、私欲ではなく日本を守るために死をも覚悟して突き進む強い意志をもった井伊直弼の生涯を描いたこの作品を読むと、教科書からは学べない一面に歴史の見方が変わってきます。
秋山 香乃『伊庭八郎 凍土に奔る』(徳間時代小説文庫)
講武所教授方を経て、遊撃隊として鳥羽・伏見の戦いに参戦、幕末にその名を残す“伊庭の小天狗”こと伊庭八郎は、盟友・土方歳三の待つ北の地へ向かい、箱館戦争で激闘の末、26年の生涯を終えました。多くの友が向こうで待っている―江戸から京、箱根、横浜、そして箱館と、時代の流れに抗いつつも、闘い続けた男、伊庭八郎。現代の日本人が忘れてしまった魂に感動し、価値観を考え直させました。
佐々木 譲『五稜郭残党伝』 集英社
道東の別海町で昭和45年に発見された首無しの2体。百年から百五十年前の推定され作者が、残党兵だと推理したものといいます。榎本武揚の五稜郭降伏の時に道内に投降を嫌った兵士たちに、五稜郭の後半年もの間、掃討作戦が続き、アイヌからの搾取だけではなく、敵だったからといつまでも追い、斬首刑にするひどいものでした。その過程の中で、訳もなく殺されていったアイヌや和人たち。歴史の教科書では書かれていない維新政府の酷さ、一度は読むべき本だと思いました。
司馬遼太郎『世に棲む日々』(文春文庫)
司馬遼太郎の作品ではあまり読まれていない小説ではないでしょうか、
前半は、幕末初期の長州藩士の思想家吉田松陰と、門下生で奇兵隊を結成し、馬関戦争や長州征伐において活躍した倒幕の志士高杉晋作を描いています。松陰の信念と、その遺志を継ぐ高杉晋作の人生は、展開も早くドラマチックで、それは27歳で亡くなったのもの、その強烈な生き様に圧倒されました。松陰の高い志をついていた久坂玄瑞と高杉晋作は早くして亡くなり、長州を変えたのは、吉田松陰であり、行動をとった塾生たちの中で私利私欲が強い伊藤博文、山縣有などが朋明治維新の中心勢力となりました。彼らも松陰門下生の時は、自分を犠牲にしてまで国の為にひた走る草莽の志士に、憧れていたようです。
新徴組『新徴組』(新潮社)
江戸で将軍上洛の警護を目的とした浪士組結成募集が行われ、京都へ上洛した際に、清河八郎より将軍上洛の警護でなく尊王攘夷の先鋒を唱え、同意した者は清河八郎に率いられて江戸に戻るが、同意できなかった近藤勇や土方歳三など24名は袂を分かち壬生浪士組を経て新選組を旗揚げすることになりました。清河八郎が暗殺されると清河の同志達も次々と捕縛されたため、浪士組は組織目的を失い、幕府は浪士組を新徴組として再組織しました。取締責任者は高橋泥舟と山岡鉄太郎がつき、庄内藩酒井家の御預かりで、江戸の市中警護行いました。戊辰戦争勃発により藩主酒井忠篤と共に庄内へ。新徴組をまとめ上げた酒井玄番は、戊辰戦争では連戦連勝と将才を発揮。勢いのついた官軍をも食い止めようとしていました。しかし庄内藩も新徴組も時流の波に飲まれていきます。
吉村昭 『彰義隊』新潮社
主人公となるのはその彰義隊や奥羽越列藩同盟に担ぎ上げられた皇族、輪王寺宮です。輪王寺宮の東北に「落ちてゆく」描写。皇族の一員でありながら戊辰戦争でたった一人、朝敵朝敵として「徳川軍」と共に滅亡への道を歩む輪王寺宮、江戸時代の終焉を描いた歴史文学の頂点と称され、これが本当の歴史なのだという悲しさや切なさがあふれています。
子母澤『新選組始末記』(中公文庫)
新選組を題材にした作品で、関係者への取材などを取りまとめられていることから、新選組に関する代表的な資料とも捉えられることができます。『燃えよ剣』のような美化された新選組や土方歳三らとは一味違った新撰組の理解ができるかもしれません。


