メンデルスゾーンの劇音楽「真夏の夜の夢」、新国立劇場バレエ・シェークスピアの世界
バレエ『シェイクスピア・ダブルビル』
NewYear's ballet of New National Theatre Ballet

新国立劇場(東京・初台)で開幕した『シェイクスピア・ダブルビル』は、シェイクスピアの名高い戯曲に基づく新作『マクベス』と、古典『夏の夜の夢』をそれぞれ約1時間の一幕もののバレエにまとめた構成でした。シェイクスピアが好きな私としては、これをどのようにバレエに演出するかという点でも楽しみでした。
『マクベス』『夏の夜の夢』の二つの作品を通じて、「暗」から「明」への流れが効果的で、シェイクスピアの世界観を伝える事ができたのではないでしょうか。バレエの形式で様々に細部を削ぎ落し劇的な空間を楽しめました。
『マクベス』
『マクベス』は新国立劇場バレエ団が、世界的に活躍しているウィル・タケットに振付を委嘱した新制作でした。マクベスとマクベス夫人の心理に焦点を絞り、装置や小道具も思い切り削ぎ落して象徴的に。幕を巧みに使った素早い場面転換が目を引きました。速い展開でシェイクスピアの原作の本質を表現していました。権力への渇望と良心の呵責の狭間で苦しむ表現の難しさに、奥村康祐さんと小野絢子さんが果敢に挑んでいました。
音楽はイギリス生まれで、あのアルフォンス・ミュシャの息子と結婚し、長く社会主義体制下のプラハで暮らし、1945年に当時のチェコスロバキアに移住して1946年に開催された第1回の「プラハの春音楽祭」にも参加した異色の経歴を持つ女性作曲家・ジェラルディン・ミュシャ(1917‐2012)でした。バルトークやヤナーチェク、ブリテン、ストラヴィンスキー、プロコフィエフらを連想させる個性的な不思議な色彩感と野性味を感じさせる楽曲で、暗い情念を沸々と表現していしまた。
シェイクスピアの『マクベス』をバレエ作品にするのは難しいと思っていました。この『マクベス』の舞台も、「原作の物語を忠実に再現することに躍起になりすぎている。マイムが多く、全然踊っていない。評価も賛否両論で、個人的には面白いとは思えなかった。」の評価もありましたが、難しいテーマを無難に表現していると感じました。

奥村康祐さんのマクベスは少し線が細いところが気になりましたが、繊細で追い詰められていく様子は痛々しくなるほどで、狂乱ぶりがまさに美しい若者が破滅へと陥って精神的に衰弱していくようでした。登場人物の心証を想像しやすくしているようにも思いました。
血のりが使われ、マクベスと夫人が文字通り「手を血で染める」場面もあり、マクダフの家族の殺害シーンは生々しく、非常にチャレンジングな部分も多いです。お姫様ばかり見てきた小野絢子さんとしてはかなり厳しい役でしたが、小野絢子さんも含めて出演ダンサーさんたちは皆さん大健闘でした。3人の魔女は美しく、「マクベス」の魔女は不気味でおどろおどろしいイメージでしたが、きれいは穢い、穢いはきれいでした。衣装が黒ですが、本当に美しく、バレエにすると、美しく素晴らしいものになってしまうのでしょう。
演劇目線で観ると、少し違うなと感ずるところもありましたが、マクベスをバレエにするというのは大変な挑戦ですが、美しいのは美しいし、演出も振付も音楽もキャストも素晴らしいと素直に楽しめました。
シェイクスピアの名高い戯曲をもとにした作品を、『夏の夜の夢』はメンデルスゾーンの美しい楽曲に、英国バレエの巨匠、フレデリック・アシュトンによる英国の雰囲気漂う振付。1964年にシェイクスピア生誕400年を記念する作品として英国で初演されて以来、高い人気を誇るプロダクションで、新国立劇場では初上演でした。前半の『マクベス』が終始、緊張感に満ちた内容だったのに対し、こちらは楽しさいっぱいの舞台でした。
メンデルスゾーンの劇音楽「真夏の夜の夢」は、シェイクスピアの戯曲をイメージして作曲された音楽です。妖精たちのストーリーをテーマにしたファンタジックな音楽のイメージ表現は、それぞれの場面を彷彿とさせる楽器の扱いやデリケートな転調はメンデルスゾーン特有のものといえます。メンデルスゾーンは風景画を描いても確かな描写力を発揮しましたが、「真夏の夜の夢」での場面の情景が目に浮かんでくるような雄弁な音楽づくりは魅力的で、ロマンチックで抒情的なメロディが随所に散りばめられています。インスピレーションと気品にあふれた魅力的な傑作といえます。
この作品は劇音楽としての多様性や面白さをすべてにおいて持ち合わせた管弦楽曲といえます。情景描写のすばらしさ、心踊る別世界に誘われるような音楽はメンデルスゾーンの音楽性の高さを感じさせます。「スケルツォ」は、第1幕と第2幕の間に演奏される音楽で、森の妖精がおしゃべりをしながら動き回っている様子が浮かんでくる楽しい曲です。
木管楽器と弦楽器の絡みの美しさ、楽しさが際立つ音楽です。「間奏曲」は第2幕と第3幕の間奏曲で、光や影、色彩が七変化するように繊細な美しさが際立ちます。「夜想曲」は、静寂の中にこだまするホルンの響きが、深い余韻を残す印象的な音楽です。中間部のしっとりとした情緒と相まって懐かしい雰囲気を醸し出します。
「結婚行進曲」は、トランペットのファンファーレに始まり、祝典的な晴れやかな雰囲気の中で音楽はキラキラと輝きを放つように大いに盛り上がっていきます。この作品の中で最も親しまれていて、結婚式の披露宴のテーマソングとして使われることの多い音楽です。
妖精の王と女王、そして人間の恋人2組が繰り広げる騒動を描いた喜劇『夏の夜の夢』。シェイクスピア生誕400年を記念して1964年に英国ロイヤルバレエが初演した作品で、結婚式での定番曲「結婚行進曲」も登場するメンデルスゾーンの同名曲に、英国の巨匠フレデリック・アシュトンが振り付けました。美しい妖精の世界や妖精パックのコミカルな踊りなど、バレエならではの楽しさに溢れていました。
絵本の世界から飛び出したような森と妖精たちの世界が、細やかな足捌きで表現されるステップや英国らしい豊かなマイムによって華麗に描かれます。妖精パックが引き起こす人間たちの騒動のようなコミカルなシーン、妖精の女王タイターニアと王オーベロンによる美しいパ・ド・ドゥなども見どころです。ティターニアやオーベロン、パックやボトムたちが舞台で大活躍し、緩急自在で高度な振り付けを楽しみました。音楽で印象に残ったのは、メンデルスゾーンの結婚行進曲メドレーです。パックが絶好調で、役柄・振付に負うところも勿論大きいのでしょうが、一人頭抜けていた印象で、美味しい役どころを、見事自分のものにしていました。

オーベロンは中近世スコットランドのおおらかな王ですが。もう少し安定感が欲しかったです。衣装が緑、背景も青緑では、割と溶けそうな感じです。シェイクスピアの喜劇では史実とは功績やキャラ付けが全然違うらしいです。夏の夜の夢』は古代ギリシャの話だと思ったのですが、衣装は、人間組が近代英国風で衝撃的でした。コスプレ感の出てしまう古代ギリシャ風よりも、妖精達の世界とは明確に違う、人間界の住人だということを表すには良いのかも知れませんが、今回のセットでは異世界に迷い込んできた感があります。
ティターニアは、ふんわりした感じはあまりなく妖精というより女王という設定を押し出した演技で、寧ろ人間的な感じてした。実際、妖精(或いは亡霊)と女王とは、言語を伴わない演技であまり相容れない感じがし、共存させながら表現するのは難しそうです。
王と女王が結婚している、というのも、違和感ありますが、『夏の夜の夢』の妖精界では、男性妖精と女性妖精の生活が割と分かれているような感じなので、性別毎の統治なのでしょうか。「夏の夜の夢」はまさに夢の世界で、美しく華やかで、かつ面白くて楽しい作品でした。妖精達の衣装も素敵で楽しめる作品でした。
参考資料
新国立劇場「シェイクスピア・ダブルビル」パンフレット
斉藤 洋 (著), ウィリアム シェイクスピア(著)
「マクベス (シェイクスピア名作劇場)」2014年
W. シェイクスピア (著),松岡 和子 (訳)
「夏の夜の夢・間違いの喜劇」ちくま書房1997年
東京バレエ団、パンフレット「真夏の夜の夢」
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
妖精と人間達が夏の森で繰り広げる大騒動を、ユーモアたっぷりに描いたシェイクスピアの喜劇「真夏の夜の夢」を、世紀の巨匠バランシンがバレエ化した傑作でしたね。
妖精の女王・タイターニアを演じるフェリは、威厳に満ちた振る舞いの中に、かわいらしさを覗かせる名演技。妖精の王オーベロンを演じる、麗しい容姿とテクニックで魅了する「踊るギリシャ彫刻」ロベルト・ボッレとの組み合わせは最高で、スカラ座ならではの贅沢で典雅な衣装と舞台美術も素晴らしかったです。
このミラノ・スカラ座バレエ団/『真夏の夜の夢』全2幕を最後の全幕映像のDVDが発売されましたので、すぐ購入しましたが、やはりDVDをテレビで見るのと、生の舞台を見るのとは違いますね。
記事を拝見して、またバレエの生の舞台を観に行きたくなりました。
アレッサンドラ・フェリは、ミラノに生まれ。ミラノ・スカラ座バレエ学校を経て、英国ロイヤル・バレエ学校に奨学金を得て留学しました。ローザンヌ国際バレエコンクールで入賞後、ロイヤル・バレエ団に入団し、19歳の時、ケネス・マクミランに見出され、『うたかたの恋』の主役に抜擢され、以後マクミランのミューズとして『マノン』『ロミオとジュリエット』などの作品に主演して観客を魅了しました。特に、情熱的なヒロインを踊って高い評価を受けました。85年に芸術監督のミハイル・バリシニコフの誘いに応じABTに移籍し、その後はABTカンパニーとスカラ座バレエ団のプリンシパルとして活躍しながら、世界各国のバレエ団にもゲスト・アーティストとして客演しました。新国立バレエ団には、ヨハン・シュトラウス2世が1874年に作曲したオペレッタ『こうもり』をベースに、フランスの振付家ローラン・プティが1979年にバレエ化した、バレエ「こうもり」のヒロイン・ベラ役で客演して、新国立バレエ団の人気演目になりましたね。
アセンズ公シーシアス(テセウス)とアマゾン国のヒッポリタとの結婚式が間近に迫っていた。貴族の若者ハーミアとライサンダーは恋仲であるが、ハーミアの父イージアスはディミートリアスという若者とハーミアを結婚させようとする。ハーミアは聞き入れないため、イージアスは「父の言いつけに背く娘は死刑とする」という古い法律に則って、シーシアスに娘ハーミアを死刑にすることを願い出る。
「ディミートリアスと結婚するか死刑か」。シーシアスは悩むものの、自らの結婚式までの4日を猶予としてハーミアへ与え、ディミートリアスと結婚するか死刑かを選ばせる。ライサンダーとハーミアは夜に抜け出して森で会うことにする。ハーミアがこのことを友人ヘレナに打ち明けると、ディミートリアスを愛しているヘレナは二人の後を追う。ハーミアを思うディミートリアスもまた森に行くと考えたからだ。
その頃森の中では、妖精王オーベロンとその妻の女王タイターニアが、美しいインドの少年をめぐって喧嘩をし、仲違いしていた。機嫌を損ねたオーベロンは妖精パックを使って、タイターニアのまぶたに花の汁から作った媚薬をぬらせることにする。この媚薬はオーベロンの魔力によって作られた強力なもので、目を覚まして最初に見たものに恋してしまう作用がある。
ところが、パックは森で眠っていたライサンダーたちにもこの媚薬を塗ってしまう。媚薬のせいで、ライサンダーとディミートリアスがヘレナを愛するようになり、4人の関係があべこべになってしまう。さらに、パックは森に来ていた職人のボトムの頭をロバに変えてしまう。目を覚ましたタイターニアはこの奇妙な者に惚れてしまう。
オーベロンはタイターニアが気の毒になり、ボトムの頭からロバの頭をとりさり、タイターニアにかかった魔法を解いて二人は和解する。また、ライサンダーにかかった魔法も解かれ、ハーミアとの関係も元通りになる。一方、ディミートリアスはヘレナに求愛し、ハーミアの父イージアスに頼んで娘の死刑を取りやめるよう説得することにする。
これで2組の男女、妖精の王と女王は円満な関係に落ち着き、6人の職人たちもシーシアスとヒッポリタの結婚式で無事に劇を行うことになった。
演劇舞台ではマクベス夫婦のみならず、兵士同士の友情の絆、裏切りや落胆などマクベスの周りの人物の心情、家族の事情、不相応な王を抱えた国の問題、結末を引き起こすマクダフの出生の秘密などなどが綴られるのですが、新にバレエ作品にする意義は、マクベスとマクベス夫人、二人が欲に取り憑かれたがために失った大切な夫婦の愛という大きな代償を払ったふたりのものがたりを描くことだと感じました。
マクベス夫人が自ら命を絶ち、それをマクベスが見つける場面は、悲しみと後悔の表現にたっぷりと時間をかけ、マクベスの終焉を予見させていました。
演劇演出も多く手がけているタケットならではのダンスと芝居のハイブリッド舞台で、新なバレエの魅力を引き出していました。
傑作バレエとして60年近く受け継がれている 構成、舞台セット、衣装、振り付けの総合力は素晴らしく魅了されました。夏の夜の夢ものがたりを美しいバレエで表現した「夏の夜の夢」でした。

